小説 川崎サイト

 

ある違和感

川崎ゆきお


「いつもと違うので、少し妙な感じになりましたよ」
「どうかしましたか」
「問題になるようなことは起こりませんでしたがね。雰囲気が違うのです」
「ほう」
「大した話じゃないのです。話すようなことでもないが……」
「おっしゃって下さい」
「つまらない話ですよ」
「どうぞ」
「いつも行っている喫茶店があるのです。昼過ぎに行ってます。毎日です」
「はい」
「そこはセルフサービスの店でして、まず最初の変化は灰皿です」
「はい」
「レジでコーヒーを買い、かき混ぜる棒やお冷やなどは自分で入れて席まで運びます」
「灰皿がどうかしましたか」
「よく聞いてくれました。私はいつも四角い灰皿を取ります。ところがその日は丸い灰皿しか出ていません。よく見ると遠くの方に積まれています。いつもは半々なのです」
「それだけですか」
「それで、仕方がなく丸い灰皿を取りました。別にそれでも支障はありません。丸くても四角でも灰皿は灰皿。しかし、丸いのは女性用というイメージがあるのです。まあ、その問題はよろしい」
「妙な感じとは、そういうことですか」
「これは偶然だと思います。レジの人の判断でしょう。丸くても四角てもいい。しかし、いつも四角い灰皿を使う私としては、勝手が違います」
「それだけですね」
「まだあります」
「はい」
「まだ聞いてもらえるのですね」
「はい、どうぞ」
「暗いのです」
「ほう」
「店内が暗いのです」
「そういう感じを受けたのですね」
「違います」
「では?」
「蛍光灯が消えています」
「切れたのですか」
「いえ、ほとんど全ての蛍光灯が消えているのです。それはすぐに分かりました。省エネでしょうねえ」
「全部では暗いでしょ」
「三方硝子張りの店で、二方面からは外光が入ります。だから、暗くはありません。また、レジ前には一灯だけ付いています。しかし、飾りの電球は消えています。これは飾りで、照明用ではありません」
「はい」
「いつもの明るさではないのです。と言って暗いと言うほどには暗くない」
「あ、はい」
「これが私が体験した違和感です。この妙な感じは、原因がしっかりあり、不思議な現象ではありません。しかし、慣れというのは恐ろしいですねえ。いつもと少し違うと、落ち来ません」
「もういですか」
「はい、誰かにこれを伝えたくて」
「はいはい、伝わりましたから」
「ありがとうございました」
 
   了




2013年5月26日

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