小説 川崎サイト



最中

川崎ゆきお



「仕切り直しかな」
 田村は課長にメールで伝えた。
「ではその方針で」と、返信が来た。
 田村は、どうやり直せばいいのか考えた。今からでは遅いことは分かっている。しかし、違う方法でアタックしないと展開はない。それだけは分かっていた。
 ケータイが鳴る。課長からだ。
「方法はあるのか?」
 やはり課長も心配しているようだ。
「仕切り直すのが方法です」
「えっ?」
「目先を変えればよいかと……」
「だから、どういう方法で」
「目先を変えるのが方法なんです」
 結局どうすればよいのか田村には分からない。仕切り直さないといけないことは分かっていても、具体的な手立ては何もない。
「戻って来い。方法はないんだから……もう一度みんなで知恵を出し合い、考えようじゃないか」
「今でないとまずいです。延期すればそこで終わってしまいます」
「じゃあ、任せる」
「責任は僕がとります。独断でやったと」
 課長は声を出さずに頷き、ケータイを切った。
「大丈夫かね」
 部長が聞く。
「やるだけのことは田村にやらせてみます」
 部長も声を出さずに頷いた。
 田村は応接室に通された。
「また来たのか」
「はい」
「さっき断ったはずだよ」
「出直して来いと言われたので、お言葉に甘えて参りました」
「で、どう出直した?」
「取り敢えず出直して来ました」
「取り敢えずでは困るよ」
「出直すことが大事かと」
「それは悪くはないね」
「はい」
「では、話を聞きましょうか」
 来たなと田村は焦った。
「新たな関係で望みたいと思います」
「うん、悪くはないね」
「はい」
「で、どんな関係かね」
「古い関係ではなく、新しい関係を築きたいと思っています」
「どんな?」
 田村は限界に達した。
「今、考えている最中です」
 
   了
 
 
 


          2006年10月16日
 

 

 

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