小説 川崎サイト

 

ライバル

川崎ゆきお


 ライバルを打ち倒し、社内で敵なしとなった太田だが、徐々に弱っていった。パワーが弱まったのだ。これはどうしたことかと考えた。
 心配事が去ったため、緊張感を失ったのかもしれない。今まで張り詰めていた糸が切れた感じだ。実はそれを望んでいたのだが、ライバルがいたときのほうがよかったと感じるようになる。気合いが入らないのだ。
 敵なしとなり、社内では自由に振る舞えるようになったのだが、そこから先が見えるようで見えない。ライバルが邪魔をし、社内で出来なかったことが出来るようになったのだから、それをやるべきなのだが、その気が起こらなくなっていた。
 仕事よりもライバルを蹴落としたかっただけなのかもしれない。こちらのほうが実は面白かったのだろう。やりがいがあったのだろう。
 ライバルを消し、すっきりしたはずなのだが、どうもそうではない。出勤しても戦闘力が沸かない。本来なら晴れ晴れと過ごせるはずなのに。
 やはり敵が必要なのだろうか。
 そう思いながら周囲を見渡すと、敵になり得る連中がまだまだいる。彼らは積極的には敵対しないが、腹の中ではよく思っていない。追い出したライバルの家来や、その親分がまだ残っている。ただ、彼らは静かだ。
 しかし、その態度の節々に、敵対意識が見出される。これは太田の勘ぐりすぎかもしれない。彼らは面と向かって敵対しないので、正面からの激突はない。だから戦いにならない。もしその連中を追い出せば、会社は成り立たなくなる。半分以上入れ替えないと駄目だろう。
 太田は疑心暗鬼に陥った。根があるのかないのかも分からない噂や、連中の態度、仕草に目を光らせた。非常に神経質になっている。それは分かっているのだが、何ともならない。ついつい疑ってしまう。
 ライバルがいた頃は、実に明快だった。自分の持てる力の限りを尽くし、対峙した。その頃が今となっては懐かしい。あの時期の充実した日々に戻りたい。
 そして太田は決心し、上司にライバルの復帰を願い出た。
 そしてライバルが復活した。それにより、太田の精神状態は元に戻った。
 今日も元気に戦っている。
 
   了

  


2013年6月8日

小説 川崎サイト