祖父の日記
川崎ゆきお
岡村はもう年寄りだが、その岡村の祖父の日記が出てきた。探し出して見つけたものではなく、押し入れの段ボールに突っ込まれていることは以前から知っていた。父親も日記を残していたが、これは読んでしまった。祖父になると、自分との関わりが薄く、別世界の話のようになるため、今まで興味を示さなかった。
押し入れの整理中、古い本と一緒に詰め込まれたその段ボールの中の日記を取り出した。
本当は祖父が読んでいた本を読もうとしていたのだ。しかし、読む気が起きないようなタイトルばかりなので、それならまだ日記の方がましだ。自分のことが出てくるかもしれないし。
日記は二冊しか残っていなかった。それも毎日ではなく、何年も空いていることがある。そして、事細かに書かれているのではなく、メモのようなものだった。
この祖父が亡くなったのは岡村の十代の頃だ。そのときの印象と日記の印象が合わない。
二冊の日記は七年ほどで、間三年ほど飛んでいる。最後の日記も古く、岡村がまだ生まれていない時期だ。その後長くこの祖父は生きていたのだが、日記はない。
日記の内容は天気と食べたもの程度で何かについて書き綴ったようなものではなく、小学生以下の内容だ。
日記でも書いてみようと思い、日記帳を買ったまではよかったが、書くことがなかったのだろうか。または、それを書いても詮無いと考えたのか。あるいはそれを文章にする気がなかったのか。
そのため、日記から得られる情報より、岡村が知っている祖父の様子の方が情報は多い。ただ、どんな人だったのかはよく分からない。
二冊の日記帳はハードカバーで、分厚いものだ。二冊ともタイプが違うので、同時に買ったものではなく、一冊目が終わったので、二冊目を買ったのだろう。
三日坊主なら二冊目を買わないはずだ。文字をよく見ると、インクのときもあるし、鉛筆のときもある。ボールペンのときも。
この二冊の日記は祖父の書斎の本棚に普通の本と一緒に並んでいた。そして二冊以上増えなかった。
岡村はその日記を流し読みしたが、やはり祖父の人柄なりを示すような記載はほとんどなかった。
読まれることを想定し、思いを綴れなかったのかもしれない。
了
2013年6月14日