小説 川崎サイト

 

とある探訪隊

川崎ゆきお


 暑い盛り、住宅地を日傘の一団が歩いてゆく。よく見ると日傘なしの人もいる。男性だ。しかし、しっかりと帽子は被っている。そのほとんどは中高年。だが中年よりも老人の方が多い。平日の日中のためだろうか。まるで老人の遠足だ。ただ、旗を持っている人もいないし拡声器を持っている人もいない。
 先頭は普通の主婦二人。カジュアルな服装だが暑さ対策はやっているようで、平地を歩くハイカーに近い。この二人の一方がリーダーかと思われるのだが、そんな感じはない。いつの間にか先頭に出ただけだろう。
 これは何かの探訪イベントで、最近街中でよく見かける。史跡探訪隊だろう。しかし、住宅と工場が混ざり合ったような人工的な場所で、歴史的何かが残っているようには思えない。
 その一隊と遭遇した室田は、地元の人間だ。そしてこの団体と似たような年齢。
「何処へ行くのだろう」室田は先ずそれが疑問だった。古墳や神社は近くにあるが、一団が歩いているところ、また向かうところは工場沿いの道路だ。その先にショッピングセンターもあるが、そこも工場の跡地で、歴史的何かを見出すのは難しい。地元の室田も見当が付かない。
 室田はたまにそのタイプの団体さんに出くわすことはあるが、予測の付くコースを歩いている。工場や住宅地になる前の村がまだ残っており、歴史的建造物としての農家もある。そんな場所を巡るはずなのだが、今回は違う。
 この種のイベントは複数あり、同じ場所を別の団体が繰り返し繰り返し回っている。
 最近見かけないのは、ネタが切れたためだろうと室田は考えている。しかし、今、目の前をゆく団体さんは予想外の場所を歩いているのだ。総勢三十人ほどだろうか。
 高橋は追跡することにした。自転車なのですぐに追いついてしまうので、ゆっくりと漕いだ。そしてたまに日陰で休憩するふりをしながら、その行き先を見ていた。
 すると、工場内に入って行く。
「工場見学」
 工場の門が大きく開き、警備員が出迎えている。そして、工場内に吸い込まれて行った。
「そんなはずはない」
 室田は部屋に戻り、ネットでそのイベントを探した。
 すると、廃村探訪だった。工場が出来る前に小さな村があったらしい。
 そして、工場内に神社が残っている。お稲荷さんの祠程度の規模だが、枯れて根元近くだけになった神木も残っていた。
 さらに、その近くにある別の工場敷地内に、道祖神や、道標の石。また笠地蔵のような横並びの石仏も残っているようだ。
 確かにこれは地元の室谷も見る機会のない物件だ。
 それで室田は納得した。
 
   了



 


2013年6月15日

小説 川崎サイト