「入ります」
富田は教授の部屋に入った。
「うまくいくかね」
「任せてください」
「君は将来のことをよく考えておるね」
「教授のお力添えがないと将来はありませんから」
「で、どんな感じなんだ」
「彼女も納得したようです」
「そうか……」
弟子は請求書を出した。
「高くついたな」
「立ち入るつもりはありませんが……」
「分かっとる」
「教授にもしものことがあれば私も」
「分かっておると言っとるだろ」
「何とかなりませんか」
「君はその気はないのか」
「我慢しています。将来がありますので」
「わしは、そんなつもりじゃないんだよ。自然なんだ。実に自然にそうなるんじゃよ」
「それが危ないと……」
「と、何だ?」
「思いますと」
「心配するな。君には世話になっとる」
「起こってからのお世話ではなく、最初からそのお世話をしましょうか」
「今、何て言った」
「キャンパスでは止めて欲しいのです」
「うん、そのつもりだ」
富田はケータイ画面を見せた。
「おお。いいねえ」
「教授の趣味に合わせたつもりです」
富田は画面を次々に切り替えた。
「三番目がよい」
「分かりました」
「これは、問題にはならんか」
「いずれにしても、全てが問題です」
「ああ、そうだな。その意味ではなく、問題を起こさんかと聞いとる」
「先に支払います」
「いるのか」
「はい」
「では、またいつもの請求書を書いてくれ」
「はい」
教授はケータイ画面を食い入るように見ている。
「君もどうだ?」
「私は残念ながらその趣味は」
「生きがいのない男だなあ」
「これが生きがいなのですか?」
教授は目が細くなった。不快なときの表情だ。
「あ、言い過ぎました」
「気にするな。これはサガだ」
富田も自分が誰かのイソギンチャクとしてしか生きられないサガを感じていた。
了
2006年10月19日
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