小説 川崎サイト

 

魔界の扉

川崎ゆきお


「魔界への扉は何処にあるのでしょうか」
「それは何処そこにあると簡単に言えるのなら、みんなそれを聞いて魔界に入っておるわな」
「まあそうなんですが、道師なら、それを知っておられ、こっそり教えてくれるのではないかと思いまして。いえ簡単には教えてくれないことは覚悟しております。だから、何かをやることで、教えていただけるのではないかと」
「そのようなクエストを果たさなくても教えてやるが、魔界への扉は教えられるものではない」
「しかし、道師は魔界へ入ったという噂が……」
「それは噂ではなく本当のことじゃ」
「魔界とはどのようなものでしょうか」
「よう分からん」
「はあ」
「だから、そんなところに入っても、なんと言うことはない」
「では、道師はどのよな手段で、魔界へ入られたのですか」
「特にない。偶然じゃ」
「それを教えてください。無理ですか?」
「教えるだけなら無理ではない」
「では、お願いします」
「魔界の扉がある。そこから入れる」
「だからあ、それは分かっているのですが、その扉は何処にあるのですか」
「分からん」
「分からないのに入れたのですか」
「今考えると、そうじゃな」
「何処ですか。場所を教えてください」
「扉がある。普通の扉じゃ。向こうが見えぬ戸なら、何でもいいのではないかな」
「扉、戸、窓でもいいのですか」
「ああ」
「それらは具体的です。いきなり空中に出入り口が現れるのではないのですね。そして、精神的なものでもなく、しっかりとした場所があるのですね」
「わしの場合はな。ここで修行中に入れたわけではない。足で入る」
「はい。で、場所は」
「わしの場合でよいか」
「はい」
「この先に小高い丘がある。三角の丘なので、すぐに分かる。その麓にお堂がある。何やら祭ってある。何かよう分からんものがな。そのお堂の扉が開いていた。そして中に入ると、そこが魔界だった。お堂の中に別の風景があった。見たようで見たことのない山並みが続き、足を踏み入れたところは渓谷じゃった」
「それは、ただそのお堂を通り抜けただけなのではありませんか」
「違う。そのお堂近くの風景とは全く違うし、山並みも見たことのない形」
「あ、はい」
「わしは、恐ろしゅうなって、すぐに引き返した。その扉へな。そして、いつもの山道に戻れた。お堂前の道にな」
「行ってみます」
「それはいいが、無理だと思う」
「はあ?」
「わしも、再三そのお堂へ通ったよ。もう一度入ろうと思ってな。しかし無理じゃった。扉を開けるとお堂の中。それだけじゃ。当然入り口は一つ。裏に抜ける扉もない」
「はあ、まあ、見学して来ます。しかし、どうしてなんでしょうねえ」
「当然わしも考えた」
「分かりましたか」
「自動ではないかな」
「自動」
「自動扉じゃ」
「はあ」
「誰かが自動扉から出た。あるいは入った。その後、自動が故障した。開きっぱなしになった」
「それが解ですか」
「だから、最初から開いておったんだ。だから入れた。閉め忘れではなく、装置のちょっとした狂いか、癖だと思う」
「では、その自動扉を使って出入りしたものがいるわけですね」
「だろうねえ」
「分かりました」
「だから、教えても魔界へは入れるものではないのじゃ」
「まあ一応見に行って来ます」
「気をつけてな」
「はい」
 
   了



2013年7月15日

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