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雑談の会
川崎ゆきお
「今日は晴れましたねえ」
「昨日はずっと雨で、外に出られませんでしたよ。いや出ようと思えば出られるのですがね。しかし雨じゃ気も滅入る。だから、出かける気になれませんでしたよ」
「いや、僕は雨の日でも出ますよ。それが日課なのでね。そうでないと一日を過ごした気になれない」
「私は傘を盗られたのがショックでしてね。それがトラウマで、雨の日は縁起が悪い日と決めつけるようになりました」
「そういう話もいいのですがね」
「はあ、何か」
「いつ頃から、こんな話がメインになったのでしょうなあ」
「はあ？」
「昔は、こんな話、どうでもいいと思ってましたよ。ただの天気の話だしね」
「まあ、そうなんですが」
「嫌じゃないんですよ。決して」
「はい」
「しかし、このシフトの仕方は何だろうねえと思いましてね」
「シフトですか」
「こんなどうでもいいような話題へシフトしてしまったって、ことですよ」
「でも、これが最新の旬の話題でしょ」
「まあ、そうなんだが、それはまあ否定はしない。しかし……」
「しかし？」
「もっと有益なというか、もう少しレベルの高いというか、教養というか、社会性のあるというか」
「ああ……」
「だから、否定しているわけじゃない」
「でも、重い話、たとえば、うちの孫が妙なことになっているような話など、しんどいでしょ」
「まあ、それは気楽には聞けませんが」
「だから、何処かで止めているんですよ」
「フィルターをかけていると」
「言っても仕方のないことがありますからねえ」
「なるほど」
「だから、傘を盗られたとかの話で十分なんですよ」
「なるほどねえ」
「あなたのような人、多くいますよ。でもそういう人は、一人で動いています。ほら、あの席にいる真っ白な頭で、きっちりとした身なりの人、いるでしょ」
「よく見かけます」
「同じ年代ですよ」
「そうだね」
「いつも一人です。きっとあなたは、あのタイプと、私らのグループとの中間なんですよ。私は嫌ですよ。あの一匹狼は。だって、楽しそうじゃないですから」
「あの人、いつも一人で本を読んでいるねえ」
「相手がいないから、本を読んでいるんですよ。本当は、私らと混じりたい」
「そう思うかね」
「いや、それはまあ勝手な想像ですがね。でも、晴れてるとか、曇ってるとか、腰が痛いとか、そんな話もしたいんじゃないですか」
「それは、どういう意味があるんだろう」
「同じように生きて、暮らしているってことですよ。その中身は、まあそれほど突っ込まない」
「でも、あの人から見れば、我々は馬鹿に見えるかもしれないよ」
「いえいえ、その他大勢の集まりでいいんですよ。この船はそれなりに乗り心地がいいんだ」
「深い浅いの問題はどうなんだろう」
「似たようなものですよ」
「いやいや、重い話をしてしまいました」
「いいですよ。たまには」
「これもまた雑談だね」
「そうそう。雑々でいいんですよ。雑々で」
「うむ」
了
2013年7月21日