小説 川崎サイト

 

異端の心

川崎ゆきお


「寺や神社以外に何か他にありませんか」
「他にとは」
「怪しそうな場所ですよ」
「寺社は怪しい場所かね」
「何かよく分からないもの祭っているじゃないですか。あれは怪しいですよ」
「それは怪しいとは言わんが」
「お寺や神社は飽きたので、他に似たようなの、ありませんか」
「一つ一つのお寺、神社、それらには様々なものが含まれており、いろいろな神秘がまだまだある。寺や神社の歴史を見ているだけでも十分持つネタだがね」
「どれも似たようなパターンですよ。同じような建物だし。お参りの仕方も同じようなものですし」
「まあ、そうなんだが、それは面白味を求めるからじゃ。そこに参る人は、もう形などどうでもよい。見慣れておるでな。神仏へのお願いも、いつも似たようなものじゃ」
「そういう地味なお寺参りや神参りはどうすれば可能なのでしょうか」
「だから、面白がっておらん、ということがまず一つ」
「ああ、まずは面白がらないことですね」
「そうそう」
「二番目は?」
「その時間を得たこと。寺社へ向かう気になったこと。これが全てじゃな」
「はあ」
「寺社参りを決めた瞬間、もうお参りが始まっておる」
「家を出た瞬間ですか」
「部屋の中で、そう思った瞬間じゃ」
「じゃ、ずっと参道なんですか」
「ああ、うまいことを言う。そうじゃ、そうじゃ」
「分かりました。その気になることが大事なんだ」
「今日は今から神に会いに行く、仏に会いに行く、そういう行為なのじゃから。その心づもりが大事」
「物見遊山じゃないのですね」
「だから、物見高いもの、低いものでもいいのじゃよ。そこへ行くことが大事」
「それはまあ、分かりましたが、寺社以外に何かありませんかねえ」
「山や川や海辺でもよいが、少しハードだ」
「交通の便が悪そうですねえ」
「だから、そういった名勝近くに寺社があったりする。この場合、便がよい」
「しかし、やはり怪しいものを見たいですよ。えっ、こんな形の仏像を拝んでいるの、とかの驚きが欲しいのです。仏像で無理なら、違うものでもいいのです」
「うーん、それは少しマニアックじゃのう」
「何かありませんか。そういう邪道とか、邪心めいたもの」
「だから、それは本人の心がけがそうだから、そういうものを求めることになる。であるから一般的なお寺や神社にしておきなさい。心を入れ替えて善男善女になりなされ、そちらから入った方が早いし、数も多い」
「分かりました」
「異端に走ってはならぬぞ」
「はい、その心、押さえます」
「よし」
 
   了

 



2013年8月5日

小説 川崎サイト