小説 川崎サイト

 

昼寝の町

川崎ゆきお


 真夏の昼下がり、通りには人っ子ひとり出ていない。川沿いに小さな町がぽつりぽつりとある。川と山の幅により、その膨らみに合わせたような町々だ。昔なら村だろう。ただ、今は普通の住宅やちょっとした工場が建ち並んでいる。狭い道をたまに砂利を乗せたトラックが走っている。
「誰もいない」
 その小さな町のメイン通りを広田は歩きながら呟く。セールスで来ているのだ。車は川沿いの余地に適当に止めている。
 日差しがきつく、通りは日陰がない。広田は何軒か回ったが、中の人は出てこない。やっと一人だけ出たのは子供で、それによると、この時間は昼寝中らしい。だから、訪ねて来る人もいないとか。宅配便もこの時間は寄りつかないようだ。
 家にいる人は昼寝中かもしれないが、町そのものが昼寝で休んでいるわけではないはず。ところが、やっと見つけた食堂のような喫茶店も、シャッターが半分閉まっている。そして準備中の札も。
 広田は店内を覗くと、店の人らしい人がいる。そして、客席で寝ている。
 この暑苦しいのに布団屋に寄る気はないが、潰れずに残っている古い布団屋があった。ここだけは開いているのか。シャッターは降りていない。元々シャッターなどない店なのだろう。表のガラス戸が全部開いている。店内は丸見えだが、薄暗い。
 広田は通りがあまりにも暑いので、店内に入った。
「いらっしゃい」
 店の人がいる。昼寝していないのだ。
 出てきた親父はステテコにランニングシャツ。その合わせ目に腹巻き。伝説の服装だろうか。そんな格好で接客する人がまだ、この町にはいたのだ。
 広田はセールスをかけようとしたが、暑さでやる気が失せている。
「暑いですねえ」
「何をお探しで」
 厳しくきた。これは買わないと怖い。
 まさか布団を買うわけにはいかないので、ウチワを買った。こんなものは何かのイベントへ行けば景品で貰えそうな品だし、百均でも売っている。
「この辺りのお家はみなさんお昼寝中ですか」
「ああ、そうだよ」
「でもご主人は起きておられる」
「昼寝には寝具がいるだろ。まあ、滅多に出ないけどね。シーツやカバー類、タオルケットはよく出るよ。ヒヤヒヤシールもね。昼寝中でも買いに来る人がいるんでね。だから開けているんだよ」
 広田は町の大きさと布団を買う客とをざっと計算したが、食べていけないだろう。実際に売れているのは百均にあるような雑貨のようなものだ。
 すると、布団で食べているのではなく、他に何か仕事をしているのだろうか。それにしては、このステテコに腹巻きスタイルでは、サイドビジネスはかなり狭められる。
「暑いから気をつけてね。若くても熱中症にかかるからね」
 そう言われると、もう店の中で涼んでいられなくなった。ウチワ分だけの短い避暑だ。
 この町では仕事にならないと思い、広田は車まで戻ることにした。
 止めていた川沿いに出ると、多くの車が止まっていた。中を覗くまでもなく、昼寝中のようだ。
 
   了
 


2013年8月6日

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