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残暑見舞い
川崎ゆきお
「季節はやはり夏ですか」
「名残惜しいですが、もう去りますなあ」
「やはり夏がいいですか」
「印象に残るのは夏でしょうかな」
「ほう」
「冬場は寒いのであまり外には出ません。肩をすぼめ、下を向いています。夏は暑いですが、ずっと暑いわけじゃない。朝顔が咲いている時間は過ごしやすい。ずっと炎天下なわけじゃない」
「夏の方が多く外に出られると」
「冬は、猫は炬燵で丸くなる……ですよ。暖かいところから出たくない。それに外に出ても風景が暗い。まあ、真冬でもよく晴れた日もありますがね。しかし、空が低いように感じられるし、風景がシビアすぎる」
「春や秋はどうですか」
「悪くはないが、暑いだけってのがいいのですよ。その中でどう過ごすか、これがいいんだ」
「なるほど」
「私は運動はしないのですがね。暑いと汗をかく。何もしなくてもね。まるで一働きしたような気分になります」
「でも、暑いと体がえらいでしょ」
「はい、えらいえらい。疲れます」
「それでも夏がいいですか」
「夏の風景が好きなんだろうねえ。そして、夏を越すとその年を越したような気になる。また今年の夏も越したってね。しかし、夏が終わると、もうこの一年、僅かしか残っておらん。夏は一年の半分じゃないんだね。だから、あっという間に年末になる」
「なるほど」
「分かりますかな」
「ああ、そういう一年の捉え方をされている方もいるんだなあと」
「年々季節感はなくなっていきよりますが、暑い寒いだけは巡ってくる」
「はい」
「今年の夏もあと僅か。無事に越したいものです。これは年越しよりもえらそうです。体がね」
「はい、お大事に」
老人から話を聞いていたのは、リアルで残暑見舞いに来ていた元部下だ。人工的というわけではないが、仕事がなくなると、自然に還るのかもしれない。
了
2013年8月21日