小説 川崎サイト

 

辻占い

川崎ゆきお


「妙な占いをされると聞いて、やって来たのですが」
 行者風の男が老婆の占い所に来ている。占い所と言っても宝くじ売場のようなスペースだ。この通りにはそういう占い所がいくつか並んでいる。近くに大きな神社があり、その裏参道だ。
「同業者ですかな」
「まあ、そんなものです」
「占いで来られたのではなく、様子見ですかな」
「見料は払いますので、お話を伺いたい」
「はいはい」
「どのような占いをなされるのですか」
「何かを決めるとき、最近あったことから決めますんじゃ」
「ん」
「だから、何か決め事をするとき、その日や、前の日に印象に残ったことを参考にして、それを使うのじゃ」
「はあ?」
「聞こえませんかな」
「聞こえていますが、聞いたことのない占いですねえ」
「たとえば、道路を渡るとき、信号がその日に限って青が多く、何カ所も待たないで渡れたことがありましょう。どの道もこの道も青青青。信号のない道を渡るときも、車が来ない。そういうのが、その日や、前日にあって、それが印象に残っておった場合、それがお告げじゃ」
「うーん」
「この場合、決め事は、進めとなる」
「少しお待ちを」
「何ですかな、その赤信号は」
「信号と決め事とは関係がない」
「そうじゃよ」
「それは占いではない」
「辻占いがありましょう。辻に立って聞き耳を立て、行き交う人々から言葉を聞き取る。これをお告げとする。そういう偶然を使うのは、占いでは古典中の古典」
「うーん」
「その人がじゃ、すらすら渡れたことが印象に残った。ここが大事なのじゃ。他にもその日や前の日に印象に残ったことがあるはず。ところが、この人はスラスラが気に入った。印象に残った。これは気運がそちらを望んでおる。だから、決め事は進めじゃ」
「それはまあ、そうなんでしょうが、そんな気分だけのことですか」
「それが何か」
「はい、ありがとうございました。それなりに参考になりました」
「占いに来る人はのう、どちらを選べばいいのかと迷い、どちらでもいいような気もし、混乱する。もしどちらでもいいのなら、好きな方を選べばいいのじゃ」
「いやいや、もう説明は結構です。見料は払います」
「あなたは何かの行者さんですかな」
「占いを研究している者です」
「それは、それは」
 行者は料金を支払い、立ち去った。
 参考にはならなかったようだ。まだ見たことのない呪器や呪術を使った占いを期待していたようだ。
「世に隠れたる占い師は隠れたままなり」と行者は呟いた。
 
   了
 



2013年9月5日

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