小説 川崎サイト

 

煙草と縁起物

川崎ゆきお


 木下はいつものようにコンビニで煙草を買おうとした。ところが品切れで、ない。
「昼から入りますが」獅子舞のような婆さんが言う。
 それよりも、こんな年寄りでもバイトが出来るのだと、そちらの方が気になった。
 まだ昼前、入荷時間を言われても何ともならない。残り本数は二本。当然他の店で買うしかない。
 木下は最近この獅子舞のいるコンビニで煙草を買っているが、たまに品切れがある。他の店で買っていた頃、そんなことは一度もなかった。この周辺の人で、この銘柄を吸う人が多いのだろう。
 木下が迷っていると、獅子は他の銘柄を進めてきた。それは少しだけ高い銘柄だが、煙草の中では安いのから何番目かだ。そのため、この二銘柄は人気商品だ。婆さんがそれを進めたのは、「これも安いですよ」という意味だ。値段の差ではない。吸い慣れたものでないと、木下は駄目なので、コンビニを出た。
 さて、そこからだ。この近くに煙草屋はあるが自販機だ。カードは持っていない。だから、コンビニへ行くしかないが、すぐ近くの店は煙草を置いていない。
 木下は自転車に乗り、少しだけ遠い場所にあるコンビを目指した。そこで一度買ったことがある。
 そこから先は滅多に立ち入ることのない道だ。用事がないためだろう。しかし、全く知らない町ではない。
 座布団を並べたような狭い歩道を走っていると、すぐ足元に招き猫が地べたに座っている。大きな家の塀際だ。そこは段になっており、敷地内なので何を置いてもかまわないのだが、地べたに招き猫は似合わない。夜中なら猫がいるように見えるかもしれないが、昼間なので置物だとはっきり分かる。
 さらに塀沿いを進むと階段の先に門がある。そこに狸の置物が三つほど並んでいる。
 木下は共通点を探した。招き猫ではなく狐なら、狸との関係はしっかり通る。狐狸を寄せ付けないために狐狸を置く魔除けだ。しかし、その狸、信楽焼きで徳利を持った例のやつだ。頼りなさそうだ。
 さらに進むと、塀の屋根の端に袋を担いだ大黒さんが乗っている。木下はまた分からなくなった。何れにしても縁起物だろう。
 その角の地べたに、今度はシーサーがぽつんとある。最初はワニかと思った。子猫ほどの獅子だ。これも魔除けだろう。ここでコンビニの獅子舞に似た婆さんと繋がるのだが、因果関係はない。あのコンビニのオーナーが、この屋の主人なら別だが。しかしコンビニに生のシーサーを置くわけがない。
 きっとこの家の主は、そういう物のコレクターなのかもしれない。そして、その一部をお披露目しているのだろうか。
 煙草が品切れのおかげで、木下はいい物を見せてもらった。
 
   了  


2013年9月9日

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