小説 川崎サイト

 

真夏の夜の夢

川崎ゆきお


 真夏の夜の夢。この言葉、島田はどこかで聞いたことがある。文字として見ただけかもしれない。だから、その中身は知らないが、この文字列だけで、十分かもしれない。
 これが「真冬の夜の夢」となると、少し違ってくる。季節が違うだけのことだが、四季から見れば、真夏は真昼で、真冬は真夜中の感じがする。また、真昼に見る白昼夢も、夏の世界だ。
 冬は暗い。夏は明るい。その夜に見る夢は違って当然だろう。
 島田は真夏の夜に印象深い夢を見たわけではない。眠っているときに見る夢ではなく、起きているときに見る夢がある。それは夢や希望という明るい世界だけではなく、儚い幻想的なものもある。
 また、何かの夢の跡も。それは現実にあったことなのだが、今思うと夢のように思える。真夏の夜の夢は、それに当たると島田は思っている。確かに今年の夏はそうだった。暑いので頭がボーとし、かなり乱暴な暮らし方をしていた。頭が冴えないので、深く考えないで過ごした。暑さに圧倒されていたのだろう。
 実際にはゲームをして過ごした。他のことをしていても根気が続かないが、ゲームなら出来た。そして、ゲーム上での冒険者に島田はなり、村を襲う魔獣を退治したり、王城に巣くう大魔術師を倒した。
 つまり、島田の真夏の夜の夢はそれだった。非常に子供っぽい話だが。
 そしてある日、起きてみると、涼しくなっていた。夏仕様の部屋が、うら寂しい。汗でいつも濡れていた椅子のクッションも、今は触ると冷たい。
 島田は開け放していた窓やカーテン、それに部屋の仕切りも閉めた。
 急に頭も体も冷やされた感じだ。そして、真夏の夢から覚めた。
 ゲームで一夏過ごしただけのことで、何か特別なことが起こったわけではないのだが、そういう夏もあったと、記憶には残るのだろう。
 
   了



2013年9月10日

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