小説 川崎サイト

 

自分の頭で考える

川崎ゆきお


「自分の頭で考えるのが大事だよ」
「ああ、そうなんですか」
「自分の頭で思い、考え、そして物語を作っていく。分かりますね。君が作っている物語は誰かの真似なんだ。誰かの頭を借りているだけで、君自身の発想ではない。誰かの目ではなく、君の目で見ないとね」
「そんなこと、考えてもみませんでした」
「だから、物語に力がない。決められたレールしか進めないので、意外性がない」
「意外性のある発想もやっています。意外な発想は普通にやっていると思うのですが」
「君のは既にある意外性で、新たな意外性ではない」
「ああ、そうなんですか」
「自分の頭で、物語を作って行きなさい」
「あのう」
「何かね」
「全部自分の頭なんですが」
「だから、それらは誰かの真似をしているだけなので、自分で考えなさいと言ってるのです」
「あのう」
「何かね」
「自分らしさって、寄せ集めじゃないでしょうか。たとえば赤ちゃんなんて、最初から自分らしい発想なんて無理でしょ。いろいろなことを知るうちに自分らしさが育って行ったんじゃないでしょうか。これは今も続いていると思うのですが」
「だから、そういう影響を棚上げして、本当に自分の目で見、耳で聞き、そして感じることが大事だと言っている」
「それって、勘違いしますよね。錯覚したり、見間違えたり、聞き違えたり。単純に見たまんまの感覚だけじゃ、危ないんじゃないですか。自分だけでは限界がありますよ」
「それも含めて、自分で考えなさい」
「難しいですよ。それ」
「誰かから聞いたことを鵜呑みにしていませんか」
「はい、特に間違っていないなあと思えば鵜呑みにします」
「その根拠は」
「よく知らないことは、鵜呑みが多いです。それに信頼している人や、好きな人の話は、それほど疑っていません」
「それらの人、嘘を言っているかもしれませんよ」
「それは何となく分かります」
「え、どういうことかね」
「この人は、こんなことは言わないなあと、何となく分かります。発言とキャラが合わない場合です。だから、それは鵜呑みにしません。そのとき、その人の頭になって考えるからです」
「うーむ」
「だから、歴史上の人物や、フィクション物のキャラの頭に時々なります。彼なら、彼女なら、こうするだろうというふうに」
「それは自分の頭ではない」
「ああ、でもそれは僕の頭の中で起こっていることなので」
「結局は他人の寄せ集めか」
「まあ、そうです。でも淘汰されていきますよ」
「それが君のやり方かね」
「特に決めたわけじゃないですが、ふつう、そうでしょ」
「だから、みんな自分の頭で考えないで、鵜呑みにするんだ」
「でも、僕はあなたの話は鵜呑みにしませんよ」
「ん?」
「自分の頭で考えるのなら、あなたの意見などいらないと思います」
「そういう話ではない。物語の作り方の話なんだ」
「じゃ、あなたは鵜呑みにして欲しいのですね」
「参考になるはずだが」
「やはり呑めないなあ」
「どうしてかね」
「ピリピリしていて、喉越しも悪いですし、胃が凭れそうなので」
「それだよ、それ。自分の頭で、今、発言したじゃないか」
「ああ、これ、これも誰かが言ってましたよ」
「そ、そうか」
 
   了



2013年9月22日

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