小説 川崎サイト

 

土人形

川崎ゆきお


 最近部屋に籠もりがちな友人を木下は訪ねた。まだこんなボロアパートが残っているのかと思うような、その二階の部屋だ。友達訪問よりも、そのアパートへ行きたかったのかもしれない。
「定食屋で見かけないけど」
「ああ、最近自炊してるんだ」
「それで、見かけないのか。なるほど」
 部屋はきっちりと整理され、掃除も行き届いている。
「籠もりがちかな?」
「ああ、そうかなあ」
「よく道で出合ってたのに、最近見ないから」
「そうだなあ、あまり外に出ていないなあ」
「今、何してるの」
「今かい。うーん、それが問題なんだ。やることがない」
「ああ」
「それで、何もしないで、じっと座ってる」
 その椅子の横にタワー型のパソコンがある。古いパソコンだが、自分で組み立てた。そのときは大いに盛り上がり、木下にもその話を熱く語っていた。
「何もしないで、じっと座ってるのが、一番の苦痛だよ。それで、何でもいいから、何かをやろうとするんだけど、なかなか熱中出来ないんだ」
「なるほど」
「それでまあ、自炊とかやってると、それなりに用事が出来るから、いいんだ。やることが発生する」
「何か色々とやることがあったような気がするけど」
「あったけど、旬を過ぎた」
「そうか」
 テーブルの上に、妙な人形がある。
「何、それ?」
「神様だ」
 土偶のような形をしている。
「じっとこれを見ていると、落ち着くんだけど、妙な世界に行ってしまいそうになる」
「それはどうしたの?」
「骨董市で買った」
「神様が売られていたんだ」
「仏様だって売られているよ」
「ああ、そうか。でも、この土人形、神様かどうかどうして分かるの」
「僕が、そう思ったので、神様にした」
「それは、やることがないから、そんなことをするんだよ」
「分かってるけど、ネタが欲しいんだ」
「プラモデルでも組み立てたら」
「作り物は飽きた。気分が乗らないんだな。その気にならないと、あれは出来ない」
「じゃ、今はこの土人形がいいのかな」
「よくないよ。内へ内へと入ってしまうから」
「うんうん」
「何かやることが見つかればいいのにねえ」
「そのうち飽きてきて、動き出すよ」
「え、神様の人形が」
「怖いことを。神様じゃなく、僕がだよ」
「あ、そうか」
 木下も、そんな土人形が欲しくなった。

   了 



2013年10月4日

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