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何もしない
川崎ゆきお
「基本的には何もしないようにしていますが、ついつい何かしてしまいますねえ」
「じゃ、やればいいじゃないですか」
「だから、基本です」
「え、何の」
「何もしないことが基本なのです」
「それは自分で決められたのですか。それとも誰かに言われて」
「自分で決めました。私はもう何もしないと」
「何かあったのですね。余計なことをして叱られたとか」
「いや、そうじゃない。何となくです」
「何となく……。それは分かりにくいですねえ。論理性が」
「そうなんです。結局はそういうところで決まるのでしょうねえ」
「え、何が決まるのですか」
「だから、基本がです」
「基本とは」
「まあ、暮らしぶりのベースでしょうか」
「それを雰囲気的なもので決められたのですか」
「そういうところに落ち着いたようなので、決めたのはあとからです。そのときは、決めようとして決めたわけじゃない。だから、あなたの言うような論理では決めなかった」
「その詳細は」
「何もしないことが基本ですが、やってもかまわない。別に何かをすることを禁じているわけじゃない。そうじゃないと生きていけませんからね」
「はい」
「気が付いたらやっていた、というのはＯＫなんです」
「じゃ、結局何かをやっているわけですね」
「問題は着火点です。ここは自動点火が好ましい」
「要するに自然な振る舞いが好ましいという意味ですか」
「それはそれで難しい。いちいちそれを自然か不自然かと考えながら動けないでしょう」
「そうすると、どういうことになるのです」
「自然でも不自然でも、それはまあ、あまりこだわらない」
「じゃ、普通ですねえ」
「まあ、そうなんですが」
「それで、何もしないことが基本だというのはどうなります」
「何が」
「最初に言われたじゃないですか」
「ああ、そうだった。忘れてた」
「つまり、論理では動かないということですか」
「まあ、そのご近所だと思います」
「はい、分かりました」
了
2013年10月9日