小説 川崎サイト

 

青空

川崎ゆきお


 青空が広がっている。雲一つないと流石に爽やかすぎる。清すぎるのだろうか。
 木村は雲を見付けた。それでほっとした。晴れているだけでも十分で、雲一つないとまでは望んでいない。多少の濁りは必要だろう。別に雲は濁りものではなく、邪魔物ではない。
 一点の曇りもないのも、清潔すぎて気味が悪い。多少の汚れは好ましい。これは木村にとっての居心地だろう。
 秋晴れ。暑くも寒くもない。この状態だけでも十分だ。その上、雲一つないとなると、レベルが高すぎる。そこまで極めなくてもいい。
 木村は朝から青空を見ているのだが、これから出掛けるところだ。その青さに驚き、ためらっている。
「自分が使ってもいいのか」
 空を掛け布団のように使うわけではない。その空の下に居てもいいのかという感じだ。空は木村とは関わりなく変化する。木村のために青空を用意したわけではない。
 もしそうなら、毎日空を見ないといけないだろう。用意されている日もあるのだから。
 一つか二つ雲がある。いずれも小さい。大勢はもう決まっているのだから、青空の勝ちなのだ。雲一つない状態に逆らうため、頑張っているわけではないだろう。
 木村は逆に小さな雲二つを愛おしく感じられた。晴れに負けた曇りの残兵のように見える。
 木村は久しぶりに青空を見て、清い心になった。これは実はまずいと感じた。それで雲を見つけて安心したのだ。
 青空のように澄んだ清い心。清心だろうか。その状態で仕事に出ると、ろくなことはない。今朝の青空を見て、全員が清い心になっているのならいいのだが、自分一人だけでは逆に清さが濁りになる。
 清いものが濁っていることになるとは妙だが、一人清潔好きや潔癖すぎる人がいると、ややこしくなることもある。多少の濁りや汚れは必要なのだ。そうでないと、この世とは思えない。
 木村はそんなことを考えながら、満員の通勤電車に乗った。その瞬間、青空を見たときの気持ちは綺麗に消えていた。
 
   了
 





2013年10月22日

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