小説 川崎サイト

 

とある憑依

川崎ゆきお


「熱意って何でしょうか。最近熱心に何かをやろうという気が起きないのです」
「自分を託せるものではないかな」
「託せる?」
「まあ、託せるものなら何でもよろしい。憑依しやすいものでしょうなあ。物でも、物事でも」
「ああ、それですねえ。それ。それが最近ないのですよ」
「以前はあったと?」
「はい。しかし、やって行くうちに熱が冷めました。まあ、うまく行かないことが原因だと思うのですが、それ以外にも、これをそのままずっとやって行っても大したことないなあと感じたりも」
「魅力がなくなったわけですな」
「魅力はまだあるのですが、今では未練です。せっかくやってきたのだから続けないと、もったいないと思う程度で」
「でも、本心は乗り換えたいと」
「そうです」
「また、熱中してやれることが欲しいわけですな」
「はい」
「目的が熱中になっていませんか」
「なってます」
「では、熱中出来るものなら、何でもいいわけですね」
「出来ればそれが有益な成果を上げられるのが好ましいです。もっと言えば趣味と実益を兼ね、ライフワークにもなるような」
「贅沢な」
「そうなんですか」
「日々熱中していると、頭がヒートしますよ」
「ああ」
「色々とやってきたのでしょ」
「はい、色々と」
「それならば、もう殆どいいものは残っていないでしょ」
「そうです。大ネタはやってしまいました」
「静かな燃焼がよいかと」
「はあ」
「淡々粛々と漢方薬のようにじんわりと効いてくるような。体質そのものが徐々に変わるように」
「そこへ至るのは、まだ僕は若いと思うのです」
「じゃ、まだ燃焼不足ですねえ」
「そうでしょ。もっと燃やさないと」
「しかし、あなたは脂の乗りきった頃を少し過ぎている」
「はい」
「だから、燃やし方の質を変えるのがよろしいかと」
「地味なことに走るわけですか」
「徐々にね」
「探してみます」
「何に憑依できるか、それだけです」
「はい、今度は長持ちするものに憑依します」
「はい、お大事に」
 
   了
 


2013年10月25日

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