小説 川崎サイト

 

超能力

川崎ゆきお


「スプーンを念力で曲げる力があるのなら、人の心臓など一ひねりだろう。喉を絞めるのもわけのないこと」
 超能力を研究している男が、そう説明する。
「ああ、それは誰でも分かっていることじゃないでしょうか」
 聞いていた青年が言う。
「どういうことかね」
「そんなことはあり得ないと」
「念力などあり得ないと」
「はい」
「どうしてそんなことが言える。説明しなさい」
「そんなこと昔から起こっていないからです」
「調べたのかね」
「さあ、太古の昔は知りませんが、狩りをしていた時代、それが使えれば苦労はしなかったはずです。だから、色々と道具を工夫したんだと思います」
「古代ほど念は強い」
「僕たちはその超能力はあるのに、退化したわけですか」
「そうだ」
「だったら、狩りの謎が解けません。念力で倒せばいいのですから」
「説明はそれだけかね」
「身近な人の中にも、そんな人はいませんし、聞いたこともありません。また、そんな凄い力じゃなくても、軽く物を動かせる程度の人もいるはずなのですが、全くいません」
「それは一般常識だね」
「そこから越えることは出来るのでしょうか」
「人の能力を超える力。だから超能力なのだ」
「海外では、軍がエスパーを訓練していると聞きましたが、あまり実用性はないようですねえ」
「じゃ、君は超能力についてどう思うかね。どう考えるかね」
「物を念力で物理的に動かすことは無理だと思います。しかし物事は動かせるかしれませんねえ。しかし、それは自己暗示のようなもので、巌の一念のようなものだと思います。本当にそう思い込む、思い込みが強い人は岩のように硬い意志がありますから、くじけないで推し進められます。そのレベルだと思います。実用性があるとすれば」
「うむ、よく分かった。非常に良い常識的な一般論だ」
「はい。しかし、それを越えるとなると、世界像の認識を変えるしかないと思います」
「ほう」
「僕たちが思っているようには世界は出来ていないような気がします。別の認識の仕方があるような。でもそれは実用性がないので、採用しないのでしょうねえ」
「その別の世界像とか何かね」
「それは宇宙まで行きます。時間と空間やエネルギーの概念に関わることだと思います。宇宙のように大きな世界も、顕微鏡で見ている小さな世界も。でもそうなると、それを見ている本人も曖昧な存在になります」
「念力の話、瞬間移動の話、千里眼の話、それらをどう説明するね」
「僕が説明するのですか」
「一応やってみなさい」
「世界装置で、一寸故障が起こった」
「故障」
「繋ぎ目が一寸おかしくなったとか」
「それはどうして起こるのかね」
「さあ、システムにはバグはつきものですから」
「次元の裂け目のようなものだね」
「でも、実用性はないと思います。再現性に」
「再現性」
「同じことをもう一度出来ないとか」
「うむ」
「これでいいですか」
「ああ、参考になった」
 
   了


2013年11月24日

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