小説 川崎サイト

 

魔物の出る町

川崎ゆきお


 無人の町というわけではないが、通りに出る人が減っている。真夏の炎天下、誰も表に出ていない瞬間もあるが、それに近い。
 まるで外出を禁じられているような感じだが、禁じている人はいない。自粛しているのだ。これは慎んでいるわけではない。怖いからだ。
 つまり、外に出てもかまわないのだが、怖い目に遭う。生死に関わることではないし、怪我もしない。ただ、心的ダメージを受ける。
「魔物でも出るの?」
「機械仕掛けのモンスターかもしれないなあ」
 古田は自分の住む町内のことを話している。外に出るのが怖いと。
「でも、今日は出てきたじゃないか」
「必ず魔物に出逢うわけじゃないけど、出る確率がかなりあるんだ。時間帯にもよるけど。夜は確実に出る。ただ、出ない通りもある。大きな道かな。人通りの多い駅から続いているような」
「出逢えばどうなるの」
「魔物が先に見付けて出て来るからね、魔物より先に見つけ出し、違う道を行くしかない。そちらにも出ている可能性があるけど」
「昼間もそうなの」
「まあ、最近は路上で子供なんか遊んでいないから、元々寂しい場所だけどね。子供も外には出ない。出ているのは母親に連れられた幼児程度かな」
「何だろう」
「ただ、複数だと大丈夫だよ。一人のときが危ない」
「じゃ、散歩なんて出来ないねえ」
「しかし」
「え」
「犬の散歩は大丈夫なんだ。犬が守ってくれる」
「安産のお守りみたいにかい」
「お産とは関係がない」
「何だろう。それは見えるの?」
「見える。隠れていると分からないけどね。だから、家の前の道に出た瞬間は大丈夫だ。ただし、立ち止まってはいけない。間を置かず歩かないと。自転車もバイクも車も止まると危ない」
「魔物に襲われるわけ?」
「怪我はしないよ」
「その魔物が出るから、外に出るのを控えているのかい。不自由じゃないか」
「だから、いつも出るわけじゃない。平気で歩いている人もいるよ。魔物に遭っても気にしない人もいるしね」
 夜も更けてきた。
「そろそろ帰るよ。夜道だから、出そうだ。それに一人だし」
「大丈夫かい」
「出ない夜もあるから。それに、走れば大丈夫なときがある。ただし、それなりの服装が必要なんだ」
「走らないと駄目なの」
「歩いてもいいけどね。僕はそのため、ワーキング用のトレパンとパーカーを持ち歩いている。駅のトイレで着替えるんだ」
「それだと魔物に遭わないの」
「遭っても、魔除け効果があるから襲われにくい」
「でも、着替えたあとの服を鞄に入れているんだろ。鞄を持ってワーキングは一寸変だよ」
「だから、リュックサックにしている。そういう人いるでしょ」
「ああ、リュック背負ってランニングしている人もいるねえ」
「魔除けとして、かなり有効なんだ」
「じゃ、襲われないように注意して帰ってね」
「ああ」
 
   了

 



2013年12月21日

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