小説 川崎サイト

 

神社巡り

川崎ゆきお


「最近神社巡りをやってますか?」
「寒くなってから行ってませんねえ。徒歩距離ならいいんだが、自転車距離だと冬場は駄目です。寒いです。お参りの御利益より、行く道中身体が冷えて体調を崩しかけたので、これは損です。だから、控えています。また暖かくなれば、自転車で方々の神社を巡りますよ」
「そうですか。毎日出掛けられていたので、それを辞めると悪いことが起きそうな気がするのですが、どうです」
「さあ、御利益はプラス側だけで、マイナス側はないと思いますよ」
「ああ、なるほど」
「ただ、道中が厄介ですなあ。たまに寺社参りツアーのバスが交通事故を起こし、怪我人が出たとかのニュースがあるでしょ。そちらのほうが怖い」
「信心のため行くのに、神仏は守ってくれないのですか」
「まだ、行っていないからでしょ。到着してからの話です。御利益が効くのは」
「しかし、帰り道の事故もあったりしますよ」
「まあ、それは聞かなかったことにします。神弄り、仏弄りというのがありましてね。弄ると逆に悪くなる。逆のことをやっているようなものですよ。凝るといけない」
「はい」
「神社はいいのですが、神社の裏とか、境内の茂みの奥にあるような祠は危険です。お稲荷さんや愛宕さんなどが祭られています。さらによく探すと、繁みの中に石だけがあったりする。何かの跡とか、石仏でしょうか。それらは誰もお参りに来ないような場所でして、繁みの中に埋まっていたりします。この辺りは危険です」
「ほう、何が危険なのですか」
「厄介を移されます」
「疫病神を起こしてしまうとか」
「まさに疫病でしょうかなあ」
「それは、どんな感じのものですか」
「蚊です」
「蚊」
「刺されたことのない蚊や、噛まれたことのない虫などと遭遇することが多いのです。これで体調を崩すことがあります。まあ、医者へ行き、待合で風邪を移されるようなものですね」
「神参りも大変ですねえ」
「だから、玉砂利や砂の敷いてあるような表側の本殿あたりで留め置いた方がよろしいです。繁みが危ない。また、古くて腐りかけているような祠や石垣も」
「悪いバイ菌がいそうですねえ」
「まあ、そんな感じです。だから、本殿前のよく掃除された、つまり清められた場がよろしい。出来れば一切物に手を触れないことです」
「ウルシに被れたりするようなものですね」
「本物は出ないと思いますが、たまに妙な具合になることがあります」
「妙とは」
「ある神社の裏にある繁みの中の祠を見に行ったのですがね、帰り道、気分が悪くなりました。それまで元気だったのにね。決して偶然そのときから体調が悪くなったわけじゃないのです。何か妙な匂いがしていました。その匂いがずっと続いていたのです。そして、元気になったとき、その匂いは消えていました。きっと何か悪いものが入ったのでしょうねえ」
「それはバイ菌のようなものですか」
「さあ、それは分かりません。そこは空気が淀んでいたように思います。石室の中に石仏がありました。水神さんですが、非常に湿気た場所でした」
「大変ですねえ。神社参りも」
「だから、本殿だけでいいのですよ。境内のややこしい場所には寄らないのが賢明です」
「また、暖かくなると、神社巡りをしますか」
「はい、さっと流す程度に」
 
   了




2013年12月25日

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