小説 川崎サイト



アレ

川崎ゆきお



 河川敷に人が現れた。散歩者ではない。それを見ていた橋の下の髭面男が近付く。
「上流なら空いてるよ」
「お願いします」
「ついておいで」
「はい」
「雨が降ると増水するからね、岸の近くは駄目だよ」
「はい」
 橋に近付いた。
「ここは三人いる」
 犬小屋のような構造物が三つある。
「いるか?」
 各小屋から男達が顔を出す。
 男達は新入りを観察している。
「どうだ?」
 男達は軽く頷く。
「OKが出た。あんたはどうだ」
 新入りは決めかねている。
「一人がいいか?」
「はい」
「最初はそのほうがいいかもしれんな。あんたの場合」
「はい」
 髭面は次の橋へ向かう。
「一夜か?」
「しばらくは」
「じゃ、小屋がいるなあ」
「作ります」
 橋の下を通過した。
「ここは水がすぐ来るから駄目なんだよ」
「はい」
 髭面は次の橋へ行く。
「あの橋は天井が低いから作りやすい。もう一つ上流は遠すぎるんだな。町からも離れ過ぎて危険だ」
 髭面は橋の下の土手の斜面に入り込む。
「ここはずっと空いているんだ。遠いからな」
 男はそこに決めた。
「日に一度は顔を見せろよな」
「魚はいますか」
「釣るの?」
「はい」
「臭いよ。ここのフナ。最初はそれを考えるんだ。でも駄目なんだな。焼くと煙が出てさ。目立つんだよな」
「分かりました」
「食べるものはあるから、フナはやめときな」
 数日経過しても新入りが顔を出さないので髭面は心配し、様子を見に行った。
 新入りの姿がない。仲間に聞いても首を振るだけ。
「やはり、アレだったのか」
 髭面は身震いした。
 
   了
 
 



          2006年11月25日
 

 

 

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