小説 川崎サイト

 

不思議な存在人

川崎ゆきお


「昔からねえ、不思議な存在の人がいたんだよ」
「妙な人ですか」
「そうじゃない。普通の人だよ。最近も出るんだなあ」
「不思議な人が出るのですか」
「何ともいえん安堵感がある」
「安心して見てられる人ですか。それなら不思議な人じゃないですよ」
「だから、どうして安心感を覚えるのかが不思議なんだ」
「どんな人ですか」
「普通だ」
「じゃ、違いは?」
「うーん、何だろうねえ。意外と普通の人っていないからかもしれない」
「いくらでもいるような気がしますが」
「そうなんだけど、反応が普通なんだ。個性がないと言えばない。そういう人物がずっといるんだ」
「何処にでもいますよ」
「小学生の頃からいる。大人になってからもいるねえ。私はずっと講師をやっているんだが、その学生の中にもいる」
「それは何でしょう」
「一般、普通。そう言うことかな」
「だから、かなり多くいるように思いますが」
「その人がいる場所は善い場所なんだ。悪い場所じゃない。また、その人のいる団体も善い団体や、知り合いが多い」
「かなり微妙ですねえ」
「存在そのものに安堵感を覚える。この人が参加していると、安心出来る」
「お友達ですか」
「いや、話したことがない人もいる。逆に話すと崩れるかもしれないねえ。眺めているだけの方がいい」
「それは一体、どういうことなのですか」
「よく分からん。たとえば学校でグループに分かれることがある。そのとき、その人がいるグループは先ず大丈夫なんだなあ」
「何が大丈夫なのですか」
「一般的なんだ。普通なんだ」
「はあ」
「たとえば何かの宴会のあと、カラオケなどへ行くだろう。その人が加わっている場合、これは行ってもいい場所なんだ。場所が問題なのではなく、カラオケへ流れるメンバーは大丈夫な人達なんだ。安心して過ごせるようなね」
「どんな人です」
「うーん、普通の人なら参加するだろう、普通の人ならためらうだろう。その目安になる人なんだ」
「何となく見えてきました」
「そうか、だから、その人が賛成すると、先ず大丈夫なんだ」
「要するに常識のある人という意味ですね。その目安になるような」
「まあ、そうなんだが、それだけじゃない。全体の持っている雰囲気がある。その人が抜けたグループは殺伐としている。特にそこで活躍するようなリーダー格ではない。加わっているだけだ。その他大勢の中の一人として」
「はい」
「そういう人が私の人生の中にいた。今もいる。色々な場所にいる。だからね」
「はい」
「本題だが、そういう人を味方に加えると、他の人も付いてくる」
「それが先生の人脈の作り方なのですか」
「キーマンではなく、一番一般的な奴を狙う」
「なるほど、勉強になりました」
「ただ、私はそうやってきたので、凡々たるものになったがね」
「はあ」
「なかなか普通の人を動かすのは大変なんだ」
「はい」
 
   了



2014年1月25日

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