小説 川崎サイト

 

風邪薬

川崎ゆきお


「寒いですなあ」
「春先の寒さですよ」
「ほう」
「真冬から抜けるときが寒いのです」
「寒さ慣れして、寒く感じにくくなると思いますが」
「そんなもの、慣れるものですか」
「まあ、どちらにしても寒いです。よく晴れて、陽射しもあるのに寒い。雪が舞ってます」
「流れ雪ですなあ。風が強いので、流れてきたのですよ」
「それよりも風邪を引きました。なかなか治りません」
「医者へは」
「はい、行きましたが、まだ駄目です」
「内科ですかな」
「当然」
「それりゃ駄目だ。耳鼻咽喉科へ行きなされ」
「耳鼻科」
「そっちの方が良い薬を出してくれますのでな」
「そうなんですか」
「私は風邪を引けば耳鼻科へ行きます。結局鼻と喉でしょ」
「そうです」
「風邪は四日ほどで治るのですがね、年を取ると、治りが遅い。それで四日を超える」
「耳鼻科へ行けば治りが早いですか」
「下駄は下駄屋、靴は靴屋でしてな。最近内科で口を開けて、薬を塗ってもらわないでしょ。あれだけでもかなり違うのです。えずきますがね。あれがいいんです。それに最近の内科、胸を聴診器で診ないでしょ。余程暇な医者でないとね。それか年寄りがやっているような」
「そうです」
「私は四日で治らないとき、薬だけを耳鼻科へ行って貰って帰ります」
「僕は四日で薬が切れてもまだ治らないとき、また行くのが嫌なんですよ。薬だけ貰えないかと思うのですが」
「だから、耳鼻科ですよ。外科でもいい」
「風邪なのに外科なのですか」
「そうです。風邪薬の処方してくれます。このときの薬は内科のそれよりもいいのです」
「それは専門ではなく、専門外の方がいいと」
「まあ、軽い風邪程度ならね。それにねえ、これは医者の話じゃないが専門外のことをするほうが楽しいことがある」
「私は、四日以内に治らないと、医者に申し訳ないような気がしましてねえ。五日目に行くのが嫌なんです」
「私はイビキがひどくてねえ。それで耳鼻科へよく行くのですよ」
「ああ、それですねえ。行きつけの医者でないと、やはりそんな技は使えません」
「吉田さんがいるでしょ」
「ああ、植木屋なの」
「あの人、風邪のときは買い薬だけで済ませるようです。医者へ行かない。まあ、熱がひどくて、きつい大風邪じゃなければ、行く必要ないのかもしれませんねえ。逆にそんな大風邪だと医者へ行く元気もない。岸本さんは、医者へ行かないし、薬も飲まない。薬が嫌いなようです。風邪の症状か、薬でぼんやりしてしまうのか、よく分からないようですしね。まあ、寝ていりゃ治るからねえ」
「あ、はい」
「黒田さんは、医者が出す薬代の方が、診察代込みでも買い薬よりも安いので、行っているとか」
「皆さん、様々ですねえ」
「まあ、風邪をこじらせて、別のところが悪くなる方が怖いですよ。だから、まあ安静が一番でしょうねえ」
「その安静なんですが、気分良く安静にしたいので、ついつい薬を」
「あなた、風邪のときでも働かないといけない用事はないでしょ」
「ないです」
「まあ、この季節、誰もが風邪気味ですよ」
「それを聞いて安心しました」
「まあ、私も耳鼻科の薬が効くことで喜んでいますが、出来ればそんなもの飲まない方がいいんだ」
「はい」
「まあ、風邪のときは苦しいのが普通なんだから。無理をすると、しんどい。だから、じっとしている。これが一番だと思いますよ」
「はい、参考になりました」
 
   了




2014年2月8日

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