小説 川崎サイト

 

ある問題

川崎ゆきお



「イメージというのは変わりますなあ」
「印象ですか」
「そうです。物事の印象です」
「当然でしょうねえ」
「分かっているが、改めて考えると、これは妙だねえ」
「まあ、印象は変わりますからねえ」
「ブレないというのも嘘だね」
「そうですか」
「同じものを見ても、同じように見えないことが多々ある」
「違ったものに?」
「そこまで違っちゃいないが、受け止め方が違うんだなあ」
「それで普通でしょ」
「そうだったかなあ」
「普通のことが異様に見えたりもしますよ」
「そうだね。状況が変われば違ってくるか」
「だから、ブレたり、ズレたりするのは当然ですよ。それ以上に正反対なものになっていたりしますよ」
「じゃ、ブレないのは何かな」
「そのものはブレていないで、見る側がブラしているのかもしれませんよ」
「まあ、長く変わらないものもあるねえ。たとえばお日さんと月はずっとある」
「風もそうですよ。山も」
「山は多少は変わるでしょ。四季により」
「ああ、そうですねえ。それで、何でしょうか」
「何が」
「変わらないものを探しているのですか」
「そこまで追い込みませんよ。軽く印象が違うことがありましてねえ。これは私の見方が変わったのか、相手が変わったのかはよく分からん」
「人に関しての話ですか」
「それだけとは限らん、物事についてもだ」
「だから、世も人も、変化しているのでしょうねえ」
「それもよく分かっているんだがねえ」
「何か悪いことでも起きましたか」
「どうして」
「そういうお話しをされるので」
「そうかい」
「何かお手伝い出来ることがあれば、協力しますよ」
「いい人だねえ、あなた。それは儀礼かね」
「いえ、私で出来ることなら」
「それはないと思うよ」
「そうなんですか」
「手伝ってもらえるのなら、最初に言いますよ」
「ああ、なるほど」
「因果応報かもしれん」
「それはまた、お古い」
「こういう言葉は変わっていないかもしれないねえ。まだ使える」
「はい」
「まあ、身から出た錆だ。ああ、これも使えるなあ」
「感心している場合ですか」
「まあ、どうにもならん問題だから、嵐が去るまで待つしかない。ああ、これも使えるなあ」
「あ、はい」
 
   了


 


2014年3月29日

小説 川崎サイト