小説 川崎サイト



徳利とオジヤ

川崎ゆきお



 幹部候補となり、やがて管理職となる。これが大地の考えている将来の姿だ。中堅の中途半端な企業だが、大地のレベルに相応しい規模だった。
 これ以上の大企業ではついていけないし、ここ以下の小企業には行きたくなかった。
「管理職って大変だよ。部下の面倒をみないといけないしさ、そんな余裕大地にはあるの」
 学生時代からの呑み友達である鈴木が言う。
「やってみないと分からないさ」
「俺の親父も管理職だったんだぜ。時代が違うけどさ、かなり頑張っていたぜ」
「あの大きな家も親父さんの稼ぎなんだろ」
「だから、どうなんだと考える昨今さ」
「昨今か」
「昨今どうしてる」
「だから、幹部候補になるため頑張ってるんだよ」
「でも、大地の会社、潰れりゃ計画はオジャンだよな」
「おじゃんか」
「オジヤでも頼むか」
「もう、呑まないのか」
「帰ってから仕事があるから」
「就職しないでやって行けるのか」
「オジヤ一つ」
 鈴木が大声で注文する。
「パソコンとネットがあれば出来る仕事だからさ、家でやっても同じこと」
「気楽そうだな」
「だから俺を呼び出したんだろ。他の奴らはうんと仕事してるからなあ」
「そうかもしれん」
「無理すんなよ」
「幹部にはなれる。無理じゃない」
「まだ、呑む?」
「ああ」
 鈴木は徳利を持ち上げて振った。
「管理職か」
「そのコースさ」
「俺はコースなんてもうなくしたなあ。レールの先が見えてる。また継ぎ足さないといけない」
「やばいのか」
「最初からな」
 鈴木はオジヤにスプーンを突っ込んだ。
 大地は熱燗で呑み直した。
 
   了
 
 



          2006年12月8日
 

 

 

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