小説 川崎サイト

 

自転車修理します

川崎ゆきお



 今にも崩れ落ちるか、倒れそうな自転車屋がある。ほぼ半壊状態だ。店は最初から小屋のようなものだが、鉄工所のように分厚い鉄骨で骨格が出来ているためか、意外と構造は確かなのだろう。しかし、壁は剥がれ、その上に張り付けてある波板も浮いている。店舗は一階にあり、二階は住居のようだ。
 以前、この地域に他府県から団体で引っ越して来た移住者のような人達は、自分で家を建てたらしい。その名残が、まだ、こうして残っている。彼ら同郷の中には鉄工所を営む者が結構いた。鉄工所と工務店や大工は違う。しかし、何とかなったのだろう。まだうるさくなかった時代だ。
 その自転車屋、看板には自転車屋とは書かれていない。自転車修理と看板文字がある。これも、その辺で余った板に書かれているのだが、板を黒く塗り、白いペンキで書かれている。
 すぐ前は大きな幹線道路が走るが、道幅が狭い関係からか歩道も狭い。しかし、そこを通る自転車は結構多く、パンクなどでは重宝する。
 自転車そのものは売っていない。
 谷田は子供の頃からそれを見ている。少し離れた町だが、たまにその前を通る。その谷田は、もう中年になっているのだが、その自転車屋は昔のままだ。
 誰がやっているのかは分からない。冬場はガラス戸が閉まっており、中は見えにくい。夏場は中は見えるが、主らしい人も、客も見たことがない。
「本当に自転車屋だろうか」
 中年だった谷田は初老になった。定年後、自転車で町内をぶらつくことが多くなる。そして、たまにその自転車屋の前を通る。やはり子供の頃と同じで、変化はない。
「自転車修理します」に看板が変わった程度だ。ただ、自転車の修理より、家屋の修理が必要になっているはずなのだが、そのままに任せている。もうこれ以上崩れようがないためだろうか。
 この地方に大きな地震が起きたときも、この自転車屋は倒れなかった。真っ先に倒壊してもよさそうなものなのだが。やはり、鉄工所並みの鉄骨が効いていたのだろう。
 しかし、子供の頃から、一度も店の人を見たことがない。奥にいるためだろうか。もう二代目になっているはずだ。
 しかし、自転車の修理だけで、やっていけるものだろうか。
 ここは別の目的で建てられた何かなのかもしれない。
 
   了




2014年4月26日

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