小説 川崎サイト

 

二パーセントの効果

川崎ゆきお



 五月晴れ。
 坂上はどうも、この季節が気に入らない。気分と合っていないのだ。ここ数年、そんな感じだ。
 では、いつ頃の五月晴れならよかったのかとなると、かなり遡らないといけない。青春時代かもしれない。
 青空に翻る鯉のぼり。風が吹き、鯉が泳ぎ出しても、今は何とも思わない。風が強いと逆風では自転車が重くなる。それだけのことでしかない。
 早くこの季節を通過し、じめじめとした陰気な梅雨が来ないものかと、坂上は思う。といって梅雨が来れば解決することではない。だが、気分的にはその季節が合っている。雨で外に出にくいことも。
 下手に五月晴れだと、下手に気が浮く。外に出てみたくなるのだ。それで今日も自転車で、近場をうろうろしている。
「空は晴れても心は闇よ」と、怖いセリフを吐きながら。
 しかし、あまりにもモロなセリフだけに、呟いているハナから笑えてくる。妙にその言い方が臭いのだ。直接すぎる。
 若葉は萌え、歩道沿いや家の前は花盛りだ。この明るさ、華やかさ、生命力の生き生きした様が鬱陶しい。合っていないのだ、今の坂上には。
 小一時間ほど走ると、汗ばみだし、心情とは裏腹に体のエンジンがこなれてきた。意外と気分がいい。
 しかし、戻れは家で面倒な用事が待っている。見たくもないような……。
 それを考えると、このままずっと走り続けていたい。
 しかし最近の面倒事も、こうして柔らかな風に吹かれ、遠くの野山を見ながら走っていると、小さなことのように見えてくる。これが狙いだったわけではないが、少しは引いてみるのもいいのかもしれない。
 そして家に戻ったとき、散歩前と散歩後では二パーセントほど気が軽くなった。たったの二パーセントだが、それなりの効果はあったようだ。
 
   了
 


2014年5月7日

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