小説 川崎サイト

 

群れる男

川崎ゆきお



 西田は喫茶店で一人座っている。仲間がもうそろそろ来る頃を少し過ぎた。よくあることなので問題にはしていないが、いつも自分が一番なのが、少し気になる。
 何か、これだけが楽しみで生きているようで、それが気になる。
 それでたまに遅れて来ることもある。無理に。
 しかし、普段は一番だ。今日もいつもの時間に来た。人数的には十人までだ。平均して五人か六人だろうか。そのため、広い喫茶店だが、席取りの意味もある。一番に来たときは、まず席を取る。
 そんなことをしなくても、この店は十分広く、満席で座れなくなるようなことはない。しかし、この寄り合いでいつも使っているテーブルがある。それは窓際で、そこだけソファーになっているためだ。そして、この位置はほぼ固定しており、この団体さんの指定席のようなものだ。ただ、風通しの良い店なので、一見さんも多い。その一人に座れてしまうと、退いてくれとは言えない。
 西田は時計を見る。
 もう誰かが来る時間なのだが、やはり姿を現さない。過去にもそんなことがあったが、三十分ほど待ち、やっと一人が来た。しかし、その他の人は来なかった。いろいろと用事があるのだろう。
 この寄り合いはお茶会のようなものだ。同じ高層公団住宅の住民だが、正式なものではない。いつの間にか、集うようになっていた。だから、決まり事はない。会長もいないし、幹事もいない。出席しないといけない義務もないし、気が変われば二度と来なくてもいい。
 これがもう四年も続いている。毎日だ。
「どうしたのだろう」
 西田は、誰も来ないことについて考えてみた。
 少し予感があった。それは休日なのだ。しかも連休で行楽日和。
 西田の行楽は、これだけだ。それなら普段と変わらない。毎日やっているようなものだ。
 他のメンバーは家族と一緒に出かけたり、他の知人と遊びに行ったのかもしれない。また、その連休を利用して、用事をやっているのかもしれない。
 西田は気になる視線を感じている。
 一人、ポツンと座っている状態を見られている視線だ。それは、いつもこの時間に来る一人客で、本を読んでいるだけの男だ。西田と同世代だろうか。
 西田から見ると、一人孤独で仲間も話し相手もいない寂しげな男だと決めつけていたのだが、今は、自分も一人だ。いつもは談笑の中にいる。
 誰もいないので、西田は笑うことも出来ないし、喋ることも出来ない。ポツンと座り、煙草を吹かしているだけの客に過ぎない。
 西田はその男に、今日は誰も来ませんねえ、静かですねえ。一人だとどうですか、ご気分は……私と同じで孤独ですねえと思われているような気がした。
 西田は煙草を吸い終えた。誰も来ないのなら用事はない。こんなところで一人で座っているのが耐えられなくなってきた。
 西田は喫茶店を出た。
 そして、それだけでは物足りないので、その喫茶店の上の階にある衣料品店へ入り、この寄り合いに着てくる服などを探した。いつも同じ服なので、たまには違うもので行きたいのだ。
 しかし、何を着ればいいのかが分からない。どれも良いように見えるが、どれも似合わないような気もする。
 かなり思案しながら選んだが、やはりレジまで持っていく勇気がなかった。そして、レジ横を通過し、通路に出ようとしたとき、あの客と遭遇した。
 西田はとっさに視線をはずした。
「誰も相手にしてくれないので、ここで暇をつぶしているのですか。または、その服では恥ずかしいので、お洒落でもやろうと決心したのですか」というような声を聞こえてきそうだった。
 
   了
 


 


2014年5月9日

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