小説 川崎サイト



特別な人

川崎ゆきお



 チャイムが鳴った。どうせセールスだと思い、昇一は反応しない。
 再びチャイム。
 これで出なければ諦めて帰るだろう。
 昇一は手が離せない。モンスターに取り囲まれ、ピンチが続いている。ここで立つと倒され、経験値が減る。
「植山さん」
 チャイムではなく肉声が聞こえてきた。昇一は非常手段でネットを切った。
 聞き覚えのない声だ。母親の声ではない。
「植山さん」
 昇一はドアを開けた。
 見知らぬ女が立っていた。今風な若い女だ。
「植山さんですね」
「はい」
 女は名刺を出した。
 昇一は目を通すが、何かよく分からない。
「ボランティアです」
「呼んだ覚えはないけどなあ」
「お話を聞くだけです」
「今忙しいので」
「お仕事ですか?」
「違います」
「上がっていいですか?」
「それより、何の御用ですか」
「ニートの皆さんにお手伝いをするボランティアです」
 昇一はもう一度名刺を見た。
「お話を伺うだけですから」
「外に出ませんか?」
「信用しています。ニートの方は皆さん大人しい人ばかりですし、本当は普通の人なんですね。特別な人じゃないんです」
「帰ってもらえませんか。意味が分からないので」
「ですからニートから抜け出すためのお手伝いです」
「誰がニートなんですか」
「植村さんがです」
「見ず知らずのあなたにどうして分かるんですか」
「管理人さんに聞きました」
「家主が」
「はい」
「家賃は払ってますよ」
「心配なさっています」
「それであなたを寄越したのですか?」
「私の希望で来ました」
「必要ないですから帰ってください」
 女は動かない。
「あなたは一体何ですか?」
「ニート救済ボランティアです」
「そこまでやらないでしょ。本当は何ですか?」
 女はにやっと笑い、ドアをロックした。
 
   了
 
 




          2006年12月18日
 

 

 

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