小説 川崎サイト

 

作り話

川崎ゆきお



 話の上だけの世界がある。実際にそれを見た人がいない世界だ。
 ただ現実にあるような話もある。実際にそんなことは起こっていないのだが、人や場所が現実と変わらないような場合、信用してしまうこともある。
 これは現実とフィクションとの違いのようなものだが、それらは入れ子になっている場合が多い。何処までが想像で、何処までが本当のことなのかと。
「また、難しいことを考えているねえ、竹田君」
「難しくないですよ」
「君は難しく考えすぎる」
「神や仏を見た人はいないでしょ。なのにそんな話が多くあるじゃないですか」
「そんなもの、気にしなければ見えてこないよ」
「はあ」
「だから、神仏の話など、最近するかね」
「ああ、よく宗教の勧誘なんかで来ますよ」
「そうか、確かにそこには神がいることになっているねえ。しかし、それがどう君と関係するの」
「だから、そういう誰も見たこともないものを信じている人が不思議だと思うのです。そして、ここの論理にずれがあり、認識している世界が違うので、困るのです。断るときに」
「勧誘かい」
「はい」
「それはトラップだからね。真に受けて相手にすると、思うつぼになるから、相手にしないことだ」
「教授もそうですか」
「休みの日、一人で留守番しているとき、たまに来るねえ。あの人達は純粋だね。本当の教祖よりも聖人かもしれない。本当に信じているんだから」
「あ、はい」
「まあ、相手の論理に乗らないことだね」
「どうすれば」
「魚を焼いている最中とかで逃げる」
「教授は御自身で魚を焼くのですか」
「焼いていない。焼いたこともない」
「なぜ、最中なのです」
「天麩羅を揚げている最中でもよい。手が放せない、ということでね」
「ああ、なるほど」
「神の話に乗らないことだ」
「いませんものね」
「しかし、いるんだよね。だから、ああして勧誘に来られる」
「いるんですか、神は」
「いるから、来るんだよ」
「そうですね」
「神だけじゃない。実際には存在しないものを抱えて来る」
「一種のフィクションでしょ」
「それが必要なんだろうねえ」
「あ、はい」
「現実だけじゃ味気ないでしょ。何か抜け道というか、そういった曖昧なものをこしらえておかないと」
「では、フィクションは必要だと」
「人は、そういったフィクションで生きていうのかもしれないよ」
「ぼ、僕もですか」
「何かのイメージを先行させているでしょ」
「はい、理想のようなものがあります」
「それが、そもそもフィクションなんだよ。素材は現実でもね」
「一人信仰のようなものですか」
「ははは、おひとり様向けのね」
「それは流儀といってもいいのでしょうか」
「そうだね。だから、宗教勧誘の人だけの話じゃないんだ」
「魚を焼いているって逃げるのは、どういう意味になるのですか」
「緊急事優先だろ。家が焼けるよ。カードとしては、こちらの方が強い」
「魚カードや、天麩羅カードですね」
「ただ、たまに大人げなく、まともに相手することがあるがね。虫の居所が悪いときね。それは失敗だ。油断だ。しかし、ストレス発散にはなると思ったけど、嫌な感情になるから発散にはならない。逆だ。やはり魚カードがいい」
「魚を焼いているというのは嘘で、これはフィクションでしょ」
「あり得るフィクションだよ」
「そうですねえ。フィクションにはフィクションをかますのが良いと」
「さあ、その考察は、君が続けなさい」
「はい、暇なので」
 
   了
 
 
 


2014年5月25日

小説 川崎サイト