小説 川崎サイト

 

キーワードのカン

川崎ゆきお



 世の中には頭のいい人というか、賢い人がいる。世の中で起こっていることをうまく整理出来る人で、それを言葉でうまくまとめる。それを聞いた人は、ああなるほど、そういうことかと納得したりする。
 宮本のグループにもそういう人がいて、リーダーとなっている。当然だろう。
「有馬さんもたまには判断を間違えることがあるんだなあ」
 有馬がそのリーダーだ。
「有馬さんでも把握出来なかったのかなあ」
 宮本は有馬に同情的だ。有馬が間違ったのなら、仕方がない。
「有馬さん、何でも知っていそうだったけど」
「そこが違うんだよ。有馬さんは細かいことはあまり知っていない。僕らの方が詳しいほどだ」
「そうなんだ」
 宮本は有馬の弁護を続ける。
「有馬さんはパターンで認識しているんだよ」
「類型からの類推かい」
「でないと、あれほどしっかりと認識出来ないよ」
「つまり、抽象化能力が高いってこと」
「そうそう、だから、学校の成績もよかった」
「普通、それを頭のいい人っていうんだろ」
 宮本は、それとは少し違うと思っている。
「カンだよ」
「カン?」
「カンが鋭いんだ。同じような情報を得ても、僕らとは違うんだ。演算がね」
「速いとか」
「そうじゃない。繋げ方や整理の仕方に違いがあるんだ」
「宮本君は、そんなことよく分かるねえ。リーダーの有馬さんと同じことが出来るんじゃないの」
「繋ぐには間に何かがいる」
「えっ」
「整理するにしてもタグがいる」
「えっ」
「それを思い浮かべるのがうまいんだ」
「ほう。それって、キーワードを使うってことでしょ」
「そのキーを見つける力が、あの人にはあり、僕らにはない。キーがあれば、鍵は開く。それに合うキーを探すのがうまいんだ。キーワードの前にもう一段階あるんだ。これは言葉じゃない」
「もう、分からないよ。宮本君」
「だから、それはテクニックじゃないだ。カンなんだよ」
「ほう」
「僕らにもカンはあるが、勘違いの方が多い。だから、有馬さんも全能じゃないから、たまには勘違いもあるってことだ」
「しかし、珍しいねえ、有馬さんが読み違えるんて」
「いや、まだ分かりませんよ。状況が変われば、有馬さんの判断は正しいことになる」
「変わりますかねえ」
「僕が有馬さんなら、あえて間違ったとみている」
「ほう」
「読み違えたことで、相手は油断するだろう。有馬リーダーも大したことないと。狙いはそこかもしれないよ」
「よく分かるねえ。宮本君」
「なーに、ただ単に有馬さんを弁護しているだけだよ」
「そうか」
「ヘッド部を有馬さんに任せているんだよ。気に入らなければ、自分で考えてやればいいんだからね」
「じゃ、一緒に泥を被るってことかい」
「だから、それが有馬さんの作戦かもしれないから」
「そこまで考えているかなあ。有馬さん」
「まあ、任せましょう。僕らの判断よりもましだから。これは流れなんだと思うよ。ミスも」
「いい部下だねえ、宮本君」
「僕に出来ることは、それぐらいだよ」
「有馬さんが崩れたら、次のリーダーは君だね」
「いやいや、それは辞退だ。僕にはそんなカンはないしね。こればかりは才能なんだよ」
「ああ」
 
   了
 
 


2014年6月4日

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