 |
 |
欲の数珠繋ぎ会
川崎ゆきお
「最近どうですか。あまり交流はしていないようですが」
「交流ねえ」
「同業者だけじゃなく、他業種との交流も必要ですよ」
「そうなんだがねえ、最近調子が悪くて」
「体調ですか」
「それもあるけど、仕事がうまく行かなくて、どんどん縮小して……」
「だからこそ交流が必要なんですよ。仕事は人と人で成り立つんですから」
「分かっていますがね、元気がなくて」
「覇気ですか」
「はい」
「だからこそ……」
「それで分かったんです」
「えっ、何が」
「これか、とね」
「何ですか、それ、教えてくださいよ」
「欲のない奴のところに人は集まらない」
「はあっ？」
「私のように、もう欲が薄れた人間のところには、人は来ないですなあ」
「何ですか、それは」
「さあ、それはよく分かりませんがね、何となくそう感じるのです。人のものまで横取りしそうなほどの欲深い奴の方が人気がある。欲張りな人のほうがいいようです」
「それは、どういう仕掛けか」
「さあ、その人について行けば、おこぼれがもらえるだろうし、その人が上へ行けば、自分も上に行ける。一段、二段と」
「それはそうだけど」
「まあ、それは、いいポジションにいないと駄目ですよ。その入り口でもかまわない。今少し勢いのある人程度でもね。地位はまだ低くても、これから延びそうな」
「そんな人、いますか」
「金田君が今、その状態でしょ」
「ああ、金田か。僕も行ったよ。最近飲みに」
「かなり周囲に集まっているでしょ」
「いるいる」
「金田君と同じように勢いのある黒田君は駄目でしょ」
「ああ、暗いねえ、あの黒田は」
「名前が偶然そうなっているだけで、黒田姓は全部暗いわけじゃないよ」
「そうだね。で、黒田がどうしたって」
「黒田君には欲がないことが分かったんだ」
「あ、そう」
「あるにはあるけど、欲張りじゃない。それが欠点なんだ。だから、人が集まらない」
「じゃ、やはり金田の方がいいんだ。僕もそう思う。金田と仲良くしたい。黒田はもういい」
「それは君に欲があるからだよ。私は黒田君を選ぶけど、自分からは近付かないが」
「じゃあ、最近どうしてるんだ」
「だから、そういう下心のある交流が面倒になったんだ」
「もっと欲を出せよ」
「出し続けたけど、無駄なことだと気付いたよ」
「そうだね、この業種、下る一方で、辞めていく人が多いしなあ」
「そうそう、だから欲を出しても、同じなんだ」
「でも金田は違うだろ。あいつは儲けているぞ」
「だから、金田君はより欲深い奴と組んだからだよ」
「欲張りの数珠繋ぎかい」
「ということだ」
了
2014年6月13日