小説 川崎サイト

 

夢の浮き船

川崎ゆきお



「夢と希望は幻想でもかまわないのですか」
「まあ、そういうことです」
「じゃ、何でもありですよ」
「叶う夢や希望だと思えているならいいのです」
「未来は開けると」
「はい、道は開けると」
「そう信じることが大事なのですか」
「信じていれば、疑わないでしょ」
「そうですか、じゃ、僕は信仰が足りないのかなあ」
「思い込めるかどうかです」
「そのメカニズムは?」
「精神状態ですかな」
「そうですか」
「都合のいい風に考える人が勝ちます」
「誰でもそう考えていますよ」
「より強く、信じてしまうほどにね」
「はあ、その段階がよく分かりません。ある日、急に信じられるものになるのですか」
「そうではなく、おそらく、信じた方が得だから、都合がいいからでしょうねえ」
「信じるものは救われると」
「少なくても、夢や希望は見られますよ」
「しかし、先生。僕はそういうことが信じられないのです」
「まだ若いのに、それは損ですよ」
「はあ」
「せっかく持っているそのエネルギーを発散させる場がないでしょ。熱狂的になってもいい時期があるんです」
「でも、幻想なんでしょ」
「いや、燃やせばそれでいいこと」
「え、何を燃やすのですか、先生」
「有り余った余計なエネルギーです。その捌け口が必要なんです」
「溜めたままでは病気になりますか」
「なりません」
「でも元気が出ませんよね。溜めてばかりだと」
「そうでしょ。元気は出すと気持ちがいい」
「元気だということを表示させるわけですか」
「面倒な言い方はしなくていいですよ。元気なときの方が気持ちがいい。元気なままを維持するには、出さないと駄目なんですよね」
「出すと疲れて、元気じゃなくなるじゃないですか」
「さあ、それはどうですかな。元気なときは試してみなさい。実際行動でね」
「それより、夢と希望なんですが、これは幻想でもよいのですね」
「はい、だから、繰り返しますが、それを真剣に、そう思えなくてはなりません。だから、誰でも夢や希望が持てるわけじゃないんです」
「それと若さはどう関係します」
「失敗しても、副産物が得られることがありますねえ。それが狙いかしれません」
「副産物ですか」
「政治家になりたいと思い、勉強する。なれなくても、いろいろと、身に付くでしょ。それが残ったりします。当然、人脈もね」
「はあ、はあ」
「だから、夢や希望は嘘でもいいのです」
「分かりました。探してみます」
「幻想だと思ってやると駄目ですよ」
「そこが難しいです。信じた振りでも駄目なんでしょ」
「一種の狂気ですなあ」
「はあ、それは怖い」
「少し怖い人です」
「怖い怖い」
「やめますか」
「はい、しんどうそうなので」
「じゃ、そんな夢や希望など持たなくてもいいでしょ。そういうものがなくてもやっていける人もいますからね」
「はい、ありがとうございました」
「いえいえ」
 
   了
 



2014年6月16日

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