小説 川崎サイト

 

デザイン

川崎ゆきお



「人と違うことをやるのがクリエーターの仕事でしょ」
「あ、はい」
「君は平凡すぎる。普通すぎる」
「しかし」
「何がしがしだ。言い訳などあろうはずはない」
「それが、あろう、なのです」
「ほう、言ってみなさい。つまらんことなら厳しいよ」
「厳しく叱られると言うことですか」
「それだけで済めば良いがね。まあ、言ってみなさい」
「はい、人と違うことをやっているのは同じ事をやっていることだと思います」
「何だね、それ」
「違うことって意味で同じでしょ。みんな揃って違うことをやっている。だから、同じになってしまうんです。
「違うでしょ。みんなそれぞれ個性的で、バリエーションは広い。個々まちまちだよ」
「だから、そこが似ているなあと」
「何だね君の感性は、おかしいよ」
「基本的な話なのですが」
「何かね」
「どうして、違うことをするのですか」
「目立つためだ」
「同じように見えてしまい、目立ってませんが」
「おかしなことを言うねえ君は、何か僕に投げかけたいことでもあるのかね。物申すなら申しなさい」
「普通のデザインが見たいのです」
「君の普通とは何かね」
「普通にその商品やサービスを説明したような、目立たない」
「あるじゃないかそう言うのは既に。一つのパターンとしてね」
「そうなんですか」
「だから、いろいろとやっているんだ。君の思っているようなことは、全部やってるよ」
「あ、すみませんでした」
「分かれば良いんだ。それに、こういうものはタイミングがある。二年前なら駄目だけど、今年なら出来るとかね。また、みんなが忘れていたようなものを、すっと出す。とかね。いろいろ手はあるんだ」
「はい」
「結局君は古典、オーソドックス、クラシック、レトロもの狙いだろ」
「ああ、そうですか。思ったことはないですが、落ち着いたものが好きなので」
「だから、それも方々でやってるよ」
「ああ、もう申すことはありません」
「君の平凡なデザインは素直でいいんだけどねえ。ここでは使うタイミングが少ないんだよ。うちだって客商売だ。頼まれてやっているんだ。クライアントが気に入らなければ、何ともならん。その説得は疲れる。いろいろ虚言を並べないといけないしね。しかしだ」
「はい」
「仕事が減った。これは確かだ」
「どうしてですか」
「素人でも出来るからだよ。だから、こちらへ出さないで、自社内でやったり、社長がやったりしているよ」
「経費節約ですか」
「それにネットで仕事を出したりする」
「はい」
「うちは高いことになる。だって、君達の給料や社会保険やらオフィス代やら、いろいろ掛かるんだ」
「そういえば、廃業しているところもありますねえ」
「だから、デザイン云々の話なんて、青臭いことは、もういいんだよ」
「はい」
「まあ、クリエーターごっこをやっているのも今のうちだよ」
「怖い話を聞いてしまいました」
「生き延びる。それもデザインだ」
「はい」
 
   了
 
   

 


2014年7月3日

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