小説 川崎サイト

 

一人参謀会議

川崎ゆきお



 朝永は久しぶりに喫茶店で一人参謀会議をしていた。こういうときは調子の悪いときで、不都合が起こったときだ。しかも長期の煩いのような。
 病気ではないが、どことなく体がだるい。元気がない。やる気がしない。そういう状態を打開するため、たまに一人参謀会議を開くのだが、あまり良いことではない。調子の良いときは全く必要ではないことだ。
 そのため朝永は参謀会議をしたくなかった。調子が悪いことを白状するようなものなので。
 ただ誰かに対して言うわけではない。参謀会議でお一人様なので、自分自身の中にいる他の人に問いかけるのだ。ことによると、参謀総長が交代するかもしれない。自分の中にいる今の野党が与党に躍り出る感じだ。これは政変だ。大変なことになる。だから参謀会議はしたくなかった。これまでの体制を変えなくてはならないからだ。これは面倒でもある一面、刷新され、すっきりするかもしれないが。
 参謀会議に参加していない人が、こっそり言う。「面倒になってきただけなんじゃないのかい」と。参謀会議が面倒なのではなく、今やっている目先のことが面倒臭くなってきたのだろう。
 ただ、今やっていることは、この参謀会議で決めたことで、そのときはすっきりとした。それから数年経過し、そのやり方では思わしくないことが分かってきたのだ。だから、そろそろ方針なり、やり方なり、目先などを変える時期なのだ。
「もう少し辛抱すれば、何とかなるかもしれないよ。せっかく今日まで積み重ねてきたんだから、もう少し続けたら」
「しかし、実績が出ない。失敗を認めた方が良い。泥沼に填まる前に抜け出さないと」
 意見はいろいろ出るが、結局のところ朝永は今の仕事をやりたくなくなっただけなのだ。それを何か歴史的転換のように持ち込みたい。
「結果が出ないでは何ともならないじゃないか」
 富永はこの意見に耳を貸したい。そうすれば、今日から、いつもの作業をしなくてもすむ。そこから逃げ出せる。
「新方針に可能性はあるのか」
 と、少し地位の高い参謀が問いかける。
「勝つ見込みはあるのか」
 何処かで聞いたような台詞だ。
 富永としては、今やっていることをやめたい。その理由が欲しい。名分だ。
 しかし、それに答えを出してくれる参謀はいない。撤退せよというだけで、次の方針がないのだ。
 富永の一人参謀会議は結論を出ないまま終わった。そして、喫茶店を出た。久しぶりの会議だった。そして、こういうことを何回やっても無駄なことを富永は知っていた。結局は自分で決めるのだから、自分でいつでもやめられるのだ。何でもありになる。
 謀反やクーデターは、その瞬間は良い。それを体験したいだけかもしれないと朝永は帰り道、ふと思った。
 こういうお膳立てされた場より、ふと道端で感じたことの方が当たっていることを、朝永は経験上知っていた。すっと入っていけるような。
 そのためには、一人参謀会議でゴチャゴチャ考えるのも、効果がある。
 
   了


 


2014年7月5日

小説 川崎サイト