町イベント
川崎ゆきお
元々、その土地の人間ではない人の方が、町作りが上手いのかもしれない。
その町も、町興しのような真似事を考えていた。そういうことが好きな人がいるのだ。そこで暮らしている人にとっては、どうでもいいような話だが、作る側としては、工作もののように、組み立てていくのが楽しいのだろう。
「町をおもちゃのように見ておる」
と、町の長老格の老人が言う。長くこの町で商売をやっている老舗の大将だ。
「この町には歴史がある。それを弄んでは駄目じゃ。しかも余所者が勝手な真似をする。許せん。それにわしへの挨拶もなかった。何が自主的だ。わざわざこのわしが出向かんといかんのか。参加したいものだけが参加か。そんなものじゃない。この町は」
他の場所から引っ越し、この町で商店などを開いている人々は、先ずここで抵抗体を見た。
当然地元の人でも協力的な人もいる。しかし、主催しているリーダーがそもそも余所者なのだ。ただ、この町に住み、この町にいるのだから、もう余所者ではないのだが。
「最低三世代、この町で暮らしておらんと、ものは言えんぞ」
長老は厳しい。しかし、誰もそんなことは聞いていない。また四世代五世代、また、何百年前から住んでいる人もいるが、何も言わない人も多い。興味がないためだ。
そして、この時代、その長老の言うような雰囲気は、もう町にはなかった。つまり、長老は大袈裟に語っているのだ。まるで彼方のロマンのように。当然、この長老は自称だ。偶然古くから店をやっており、年もいっているので、偶然長老風に見えるためだ。ひっそり店の奥にいれば、普通のお爺さんだ。
つまり、この長老は長老ごっこがしたいのだ。その機会が来たので、はしゃいでいる。
「そんな大袈裟なことじゃないのです。たまに広場でイベントをやる程度です。それで、よければ参加していただきたいと言うだけで、強制ではありません」
「いいや、そんな屋台のような場所に、うちの饅頭は出せん」
「当然です。だから、もしよろしければと、お声を掛けただけで」
「それが町興しになるのかね」
「だから、そんな大袈裟なものじゃなく、お祭りですよ。このあたりのお店の」
「どんな店が参加するのかね」
「プラネというフランス料理店や、洋菓子のチンチロリンとか……」
「余所者ばかりじゃないか」
「商店街の横に出来たショッピングビルがあるでしょ。上はマンションですが、そこの人達が多いです」
「地元は」
「だから、下駄屋さんと貸本屋さん」
「貸本屋。そんなものとっくに潰れてないぞ」
「貸本屋という屋号の電書貸本のオフィスがあるのです」
「電子貸本。なんじゃいそれは」
「インディーズ系電子書籍の貸本です」
「知らん、そんなインディアンの本など」
「でも、地元の人ですよ」
「貸本屋は今村さんが大昔やっていた」
「その曾孫さんです」
「うーん」
「ここで、地元の名物の饅頭がないと寂しいのですがねえ。まあ、いいです」
「しばし、まて」
「あ、はい」
「高いぞ」
「饅頭がですか」
「それにうちは饅頭屋じゃない」
「あ、はい」
「饅頭司じゃ。賢所にオマンを収めていた家柄じゃ」
「オ、オマン。危ないです」
「何が危ない」
「じゃ、参加を」
「そんなことで、町興しになるのかね」
「だからそんな大層な話じゃないのです」
「そうか」
長老はごねたが、結局名誉会長ということで、虫が治まったようだ。
最初は身内と関係者だけのイベントだが、路上コンサートを座興でやり、それらの人の知り合いなども加わり、それなりに人が集まるようになった。
他の老舗に先立ち、例の饅頭屋の大将は、いい位置に出た。揃のジャンパーが用意されたが、長老だけは色違いだった。これが気に入ったようだ。実際、町の長老も、有力者も、いなかったのだ。そんな元気もないのだろう。
よそから来た店のオーナー達の方に活気があり、町は少しだけ賑わった。
了
2014年7月9日