小説 川崎サイト

 

四つ目が通る

川崎ゆきお



「最近何か気付くことはありますか」
「気を失っていて気が付くということはないが」
「大変ですよ。気を失うなんて」
「そうだね。眠っていて起きたとき、気付くとは言いにくいねえ」
「そうではなく、最近気になったようなこととか」
「まあ、普通でしょ。今朝は暑いとか、食欲が朝からあるとか、ないとか、その程度のレベルですよ」
「世間については」
「世の中ねえ。さあ、どうなんでしょう。いろいろなことが起こっているようですが、実際のことは分かりませんよ。知ったかぶりをしても、根本的に間違っていることを話していたんじゃ、詮無いでしょ」
「情報のことですね」
「偉そうなことは言えませんよ。それに何かを語る場合は、それなりのレベルが必要でしょ。これは当事者でないと分からないかもしれませんしね。それよりも」
「何かありましたか」
「四つ目を見た」
「かなり飛びますが」
「見ただけのことだ。しかし、誤解して見ている。四つ目をね」
「八つ目ウナギのことですか。目が八つあるように見えるような」
「私が見たのは人間だ」
「三つ目は聞いたことがありますが、四つ目は珍しいですよ。というより、簡単に見られるわけがないですよ。何処で見られました?」
「暑い夕方だ。コンビニからの戻り道、すれ違った。四つ目に」
「もっと詳細を」
「ご飯がなくてねえ。あると思っていたら、食べていたんだ。残ったご飯は冷蔵庫に入れておく。暑いからねえ。腐るから。それを食べてしまっていたんだ。それで、コンビニへ行った。その戻り道だよ」
「ご飯と四つ目は関係しますか」
「しない。しかし詳細を語れというので、余計なことまで言ったまで。省略してもいいんだけどね」
「はい、それで、四つ目とは」
「貧相で丸顔のご婦人だ。中年をかなりすぎておる。町内の人かもしれんが、見たことがない。まあ、よくいるおばさんだよ。普段着のね」
「その人が四つ目なのですか」
「ああ」
「どんな」
「鼻だ」
「はあ」
「鼻の穴がまん丸で、二つぽかんとある。こっちを向いている。当然その上に小さな丸い目もある。合計で四つ。だから、四つ目だ」
「それは、失礼な」
「気付いたんだ」
「何をです」
「昔の人は、こういう顔を見て、四つ目だと思ったんじゃないかとね」
「大変なことに気付かれましたねえ」
「大変じゃないよ。ふと思いついただけで、話すようなことじゃない。ただ。本当にそう見えたんだよね。目が四つ開いているように見えたんだ。鼻の穴って、まん丸じゃないでしょ。丸い人もいるけど、長細かったりとか。しかし、まん丸なんだ。そして中が黒い。これはもう目玉だよ。それに鼻が短い。縦にね。だから鼻の穴と目が近い。これは一つのものではないかと思ったよ」
「それは、趣味の悪い観察ですねえ」
「それからだよ。四つ目が見えるようになったのは。あの人も四つ目、この人も四つ目だとね。結構いますよ」
「もっと世間一般のことで、最近気付いたことを聞きたかったのですが、もういいです」
「同じようなものだよ」
 
   了



2014年7月21日

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