小説 川崎サイト

 

ほんの少しの人

川崎ゆきお



 真夏、頭がぼんやりとし、何ともならない。富田は毎年そんなことを言っている。自営の富田は夏場はそのため夏休みとしている。結構な身分だ。夏の間休むのだから。
 実は仕事をすればするほど赤字になる。だから、休む方が被害は少ない。これを何とかしないと、結構な身分ではいられない。せめて夏以外の季節に稼げるようにならなければ、結構ではない。
 自分で始めた仕事なのだが、もう一年になる。そろそろ成果が出てきてもいいはずだ。赤字から黒字へ。しかし、ネット上に置いている売上表は凪いだまま止まっている。
 売れると個数が出るのだが、月に十個程度。月二百個は売れないといけないのだが、十個だ。この数字が上がっていくようには見えない。始めた頃と同じだ。
 これが月十個から十二個になっていれば励みにもなる。やがて二十個になり、目標の二百個までいくのではないかと期待出来る。しかし、びくとも動かない。
 担当のコンサルタントがついているが、まだ二十代だ。売れるようなサービスを何度か言ってきたので、その通りにした。そのたびに出費がかさんだ。このコンサルは自社のサービスを売るだけのセールスマンのように思えてくる。実際そうなのだが。
 集客のためのメールも効果がないのだが、毎月、これだけでも結構な出費のため、自分で書くことにした。月に一回から週に一回にし、次は三日に一度にしたが効果はない。買いもしないもの、興味もないようなメールをもらっても見もしないだろう。、削除するだけでも手間だろう。
 コンサルのすすめで、SNSによる集客などを試みた。フェースブックやツイッターだ。客になりそうな人をフォローしたり、友達申請などをしたが、これも効果がない。
 一年目の真夏、富田は暑さでうなりながら、昼寝をしていたとき、ふと妙なことに気付いた。
「誰が買っているのだろうか」
 このシステムは激安のため、誰が買ったのかは分からない。知っているのはこのサービスをやっている会社だけだ。コンサルはそこの社員だ。実際にはその会社と客との関係で成り立ち、富田はスペースを借りているだけなのだ。
 全く売れないのに、月に十個前後は売れているのだ。それは非常に安定している。しかし、売上げを伸ばそうと、手を尽くしても、増えない。それがおかしいのだ。
 月に十個売れているのだから客がいるのだ。一年で百二十人いる。
「本当にいるのだろうか」
 富田はやっと気付いたようだ。
 タネを明かせば、その十個はサービス会社が買っているのだ。たまに十二個売れたときもある。コンサルがすぐに電話してきたのは、今となってはよく分かる。売上が伸びているので、広告を出そうとか何とか言ってきたのだ。
 昼寝から起きた富田は、悪夢を見た思いだ。夢ではなく現実に。
 そして、そういうことに気付かない人が世の中にほんの少しだけいる。
「自分のことだ」
 富田は、その、ほんの少しの人だった。
 
   了




2014年7月26日

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