小説 川崎サイト

 

最高気温

川崎ゆきお



「今日は特別暑いですなあ」
「新記録が出そうですよ。私は楽しみにしています」
「何の記録ですか。何かスポーツでもありましたか」
「いやいや、気温の記録です」
「日本記録ですか」
「いやいや、この地方は日本記録になるような場所じゃない。過去もそうだしね。だから、この町での新記録ですよ。今夏最高気温じゃなく、観測史上最高ね」
「ほう」
「これは観測史という、まあ、歴史のようなものですよ。それに残るわけです」
「この町での最高気温は何度ですか」
「知りません」
「ほう」
「調べれば分かるんでしょうがね。インターネット上で公開されています。過去のね。ただ、ありますかなあ。データとして」
「あるんじゃないですか。気象庁はそれを記録するのが仕事でしょ」
「そればかりじゃないですが、観察記録は大事です」
「それで、今日、更新されそうなのですか」
「しかし、この町で最高気温が更新されてもニュースにならない。やはり日本記録でないとね。これは自分で調べて、やっと分かることです」
「じゃ、調べないと」
「新記録なら、そう表示されますが、まあ、大した温度じゃない。しかし、四十度越えでもすれば別ですよ。日本一じゃなくても、近くに並びます。そのとき、この町では観測史上最高になりましたとくる」
「なりますか。今日」
「よいところまでは行くんですがねえ」
「そうでしょ。この町は暑さで有名じゃないですから」
「それでも、今日はどきどきしながら、待っているんです。まだ昼前ですが、朝からかなり暑い。朝の全国ランクでは上位に入っています。この溜が効くかどうかです。スタートがいい。だから、結構延びるんじゃないですかなあ」
「暑いのはいやですよ」
「だから、いっそのこと、記録が出るほど暑ければ納得できます。中途半端に暑いからいやなんですよ」
「寒いときはどうですか」
「この町は北国じゃないから、雪も降らない。しかし、この町としては最低気温になるような日もあるはず。つまり、この町としては記録的な寒さもあるんですよ。これは、数値的には大したことはない。わずかに零下になっている程度です。しかし、町としては大変なんですよね」
「しかし、今日は本当に暑いですよ。体に気をつけてください」
「はい、ありがとうございます。昼を過ぎたあたりの延びがどの程度なのか、朝の溜が何処まで効いているのか、昼からが見所です。ベストスリーに入るかもしれません」
「熱中症にならないでくださいよ」
「はいはい」
 
   了

 



2014年7月30日

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