小説 川崎サイト

 

金縛りと寝小便

川崎ゆきお



 世の中には色々と面白い仮説を立てる人がいる。それを楽しんでいる限りではいいのだろう。佐山という老人は妙なことを言い出した。
「寝小便と金縛りは同じことを発見した」
 当然聞き役がいる。独り言ではもったいないためだろう。聞く役目は曾孫で、まだ小学生だった。
 曾孫にとってはお爺ちゃんのお父さんだ。もうこのあたりで、誰なのかが分からないかもしれない。
「金縛りにあったことも、おねしょしたこともあるよ」
「そうだろ、小さい頃は寝小便の一つや二つはする。そんなものだ」
「金縛りもあるよ。動けなくなったり、背中を誰かに押されているみたいで、痛かった。のしかかられているようで。実際、上に誰かが乗っていたような」
「それらはねえ、実は起きて夢を見ていたんだよ」
「寝ていたよ」
「体が起きていたんだ。頭だけが寝ていた」
「そうなの」
「今は寝小便はないだろ」
「最後は二年の頃だよ。五年生になると、もうしない。でも危ないことがある」
「危ないとは」
「夢の中で、トイレでおしっこしてるんだ。布団の中じゃないよ。ちゃんとトイレで。だから、これはおねしょじゃないって安心しながらしてた。トイレでしているから大丈夫」
「夢の中で、トイレで小便をしたんだな」
「そうだよ。気持ちよかったよ」
「それで、実際はどうだった」
「そのまま起きたよ。でもしてなかった。それで、したくなったので、トイレに行った。これは夢の中じゃないよ。そのあと、寝たけど」
「寝小便は体は起きていて、頭だけ寝ているとき、やってしまうんだよ」
「え、どういうこと」
「小便をしている夢を見ているんだけど、体が起きているので、やってしまうんだ。夢の中でね」
「そうなの。小さい頃だから、覚えてないよ。おしっこの夢を見ていたのかなあ」
「そうだよ。もし完全に寝ていたのなら、体も寝ているので、おしっこはしない」
「おしっこって、押すことなんだ。押しっこ」
「余計なことを言わなくてもいい。爺ちゃんの話を聞け」
「聞いてるよ」
「次は金縛りだ」
「それも同じなの?」
「本当は寝ていないんだ。だから、体が反応するんだよ」
「夢の中で、悪い奴に迫られたから、蹴ってやったよ。そしたら本当に蹴っていたことがある」
「それも寝ていなかったんだ」
「爺ちゃんもある」
「寝付けんときがある。寝ているのか、起きているのか分からんときがある。そんなとき、夢を見る。しかし、それを夢だとは思っていない。何かを思い出していただけなんだけどな」
「本当は寝ていたの。起きていたの、どっち」
「起きていたと思う。体はな。しかし頭はどうやら半分寝ていたようだ」
「ふーん」
「これで、金縛りと寝小便は似ていることが分かっただろ」
「幽霊もそうして見えるんだね」
「え、何て言った」
「幽霊も、体は起きているのに、寝ているときに見るんだね」
「はあて、爺ちゃんもそこまでは考えてはおらんかったが。まあ、疲れているときや病気の時は変なものを見るなあ。きっと頭だけは半分寝ていて、夢のようなものを見ているのかもしれんのう。体は起きているので、目も普通に見える。そこに夢のようなものが重なって見えるのかもしれんのう」
「じゃ、幽霊も夢のようなものなんだ」
「そうだなあ、昔の人は寝ぼけて幽霊を見たとかいうからのう」
「頭だけが寝ているんだ。体は起きているのに」
「まあ、寝ぼけが幽霊の正体かもしれんわい」
 
   了



2014年8月12日

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