小説 川崎サイト

 

不気味な道筋

川崎ゆきお



 大黒はゴミ袋を切らした。小さなゴミ箱はあるが、一杯だ。いくらも入らないので、最近はゴミ袋に直接捨てている。そのままゴミ置き場へ持って行けるので、手間が省ける。そのゴミ袋を切らした。部屋に少しだけゴミがある。いつも飲んでいる紙容器に入ったコーヒーとかだ。飲みきるまではゴミではなかった。洗ってその紙容器を再利用するのなら、ゴミではない。今は捨てる運命にある。それが目障りなので、早く捨てたい。他にも似たようなゴミが散らばっている。冷やし中華のプラスチックの器だ。蓋もだ。これも食器として使うことはない。これも目障りだ。まだ容器の底にツユが残っている。蹴飛ばすと床が汚れるだろう。今は危険物となっている。そのため、早くゴミ袋に入れたい。
 夕食後、夏の日はまだ長く、そして暑い。そのため、少し時間をおいて、薄暗くなった頃、大黒は自転車で百均へ向かった。その道は毎日のように散歩で通っていた道なのだが、夏場はきついので、通っていなかった。散歩以外でこの道を通る用事はないのだが、その先に百均があった。百均で売っているようなものは、すぐ近くにあるコンビニでも売っている。炎天下でも、距離が短いので、問題はない。
 暗くなった百均までの道は、久しぶりだった。いつもは昼間に走っていたので、暗いのに慣れていない。しかし、その沿道はよく馴染んだ風景で、家並みもよく知っている。街路樹のある歩道や小学校前などだ。毎日見ていたのだから当然だろう。しかし、暗いと何かよく分からない感じになった。見知っているはずなのだが、違和感がある。違う道筋に入ったわけではない。そこまでの間違いはさすがにない。
 沿道が馴染んでくれない。沿道は風景だ。建物や道や街路樹や電柱だ。そこには人格などない。だから、風景からの視線もない。目がないのだから当然だろう。しかし、よそよそしいのだ。いつも見慣れた退屈だが和める場所だったのだ。それが他人の顔をしている。
 暗いので、そんな気になるのかと大黒は思ったのだが、やはり風景が冷たい。ご無沙汰しすぎたためだろうか。
 風景に馴染むのは、風景からも馴染まれているためはないかと、大黒は妙な考えを持った。そんなはずは何処にもないのだが。
 住宅地の玄関先で黒犬に吠えられた。いつも吠えたりしない。忘れているのだ。この犬も。
 暑くなってから一ヶ月少し、留守にしていた道筋だ。それほど経過していない。しかし、毎日だったことが効いているようだ。しかし、それぐらいの日数では町並みの変化などない。夏前咲いていた朝顔も、まだ咲いている。ただ、蝉が鳴き出した頃、この道は通っていない。
 空々しい顔をした道筋を進み、大黒は目的の百均に入る。ここも久しぶりだが、変化はない。ビニールのゴミ袋売場には、以前と同じような種類が並んでいる。大黒はゴミ袋を買い、ついでに紙容器に入ったコーヒーを買い、もと来た道に戻った。
 やはり、違和感は残る。しかし、いつもは昼間しか通っていないので、そのせいだろうと、解釈した。
 ゴミを早速ゴミ袋に入れ、すっきりさせた。もうそのときは、あの道筋のことなど頭になかった。
 
   了

 
 

 


2014年8月28日

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