小説 川崎サイト

 

ファンタジーの果て

川崎ゆきお



 現実とファンタジーとが重なり合う箇所がある。現実の奧へ行くと、これが結構ファンタジーとなり、ファンタジーの最深部へ行くと、非常に現実的となることもある。そういうことは想像で、確認した人などはいない。大陸の端に海があり、その海の果てに滝がある。大陸も海も亀の上に乗っている。そんな感じの想像に近い。
 なぜ亀なのかは分からないが、水平線がやや丸いためかしれない。だから、亀の甲羅に近い。
 ファンタジーを空想物語で、現実とはかなり違うルールでできていたりする。つまり現実ではあり得ないことが、ファンタジー世界では普通にある。空を飛んだり、動物が喋ったりだ。それ以前に歴史上存在しないような王国があったりもする。だから、これは地上の国ではなく、想像上の国。空想物語の中での国だろう。
 そこまでファンタジーの中程まで行かなくても、その入り口のような場所までなら行ける。日常的にも多少は接しており、出たり入ったりできる。
 ファンタジーを夢の世界だとすれば、その夢に一歩か二歩は足をかけているのだろう。
「また、悪い夢を見ていましたよ」
「悪夢ですか」
「眠っているときに見る夢など可愛いものだ。罪はない。ある夢を現実のものにしようと冒険してみた。最初から夢のような話だとは分かっていたのですがね。それより欲のほうが強かった。欲に目がくらんだのでしょう」
「騙されましたか」
「最初の一歩目は引き返せる。二歩三歩まではいい。次の四歩目が危なかったりする。もう戻れないほど入り込みすぎた」
「よくあることですよ。人から欲得を抜けば、何も残らなかったりしますからねえ」
「欲得なら生きるためには必要なので、問題はないんだが、あらぬ夢を見てしまったのがいけない。欲得ってのは現実にかなうからやるわけだしね。そうじゃなく、ファンタジーがだめだ」
「それは、虚構世界ということですか。おとぎ話のような」
「そうなんだ。こことは別の世界があるような気になってねえ。いつもなら二三歩で引き返すんだが、今回少し、ファンタジーをやりすぎた」
「ファンタジーって、やるものなのですか」
「食べていくためにやる行為じゃなくね、だから、しなくてもいいんだ。ファンタジーなんて」
「あ、はい」
「そのファンタジー、中程まで進んだのだが、その奧がチラリと見えた。するとね。それは現実以上に厳しい現実が見えたんだよ。それじゃもうファンタジーじゃない」
「よく分かりませんが」
「一歩か二歩、見えたか見えなかった程度のファンタジーならいい」
「それは風俗店の入り口で、思うことと近いですか」
「え、何だいそれは」
「いえ、いいです」
「ああ、そうだねえ。入り口を少し覗く程度でいいんだろうねえ」
「それが、ファンタジーとの接し方のコツですか」
「そうだ。ファンタジーの正体見たり枯れ尾花だ」
「枯れススキを見たようなものですか」
「うまく喩えがかみ合わんようだが、それでもいい」
「しかし、人にはファンタジーが必要でしょ」
「それが、曲者でねえ。深入りはいけない。それだけだ」
「はい」
 何を指してファンタジーと言っているのかは、ここでは分からない。
 
   了


2014年8月30日

小説 川崎サイト