小説 川崎サイト

 

神様の発見

川崎ゆきお



「残暑と言うのは続くものですなあ」
「秋に入っても続きますよ」
「しかし、もうその頃はそれほど暑くないでしょ」
「秋のいつ頃かにもよりますが、初めの頃はまだ暑いでしょ。夏並です」
「じゃ晩秋は」
「ああ、もうその頃には残暑とは言わなくなっているでしょ。あなた言いますか」
「言いません」
「木の葉も紅葉し、冬支度。肌寒いと言うより、寒くなってくる頃です」
「ああ、そういえば、真冬のコートを着て、紅葉狩りに出ましたよ」
「しかし」
「はい」
「いずれ、涼しくなるとは思うものの、待てませんねえ」
「今日は特に暑いですからねえ」
「朝は涼しかったので、これが秋の始まりですよ。そろそろです」
「夜はまだ寝苦しいですよ。熱帯夜です」
「寒くなると、その熱帯夜、懐かしく思いますよ。あの暑さが恋しいと」
「今はそうは思えませんが、それにいくら冬でも暖房で部屋を暖めすぎると、気分が悪くなりますよ」
「はいはい」
「それより、季節の神って、いるのでしょうかねえ」
「さあ、知りませんねえ」
「冬神とか、春神、夏神、秋神とか、いそうな気がしますが」
「行事ならあるでしょ。この季節の行事。そこに出てくる神様でいいんじゃないですか。同じ神様かもしれませんがね」
「ああ、なるほど、春の田植え前の神様も、秋の刈り入れ後の神様も、同じなんでしょうねえ」
「神社の前に、そういう行事の予定表が書かれてあるでしょ」
「ああ、気にして見てませんでした。じゃ、その神社の神様なんですね」
「四季のない国じゃ、四季の神様はいらないでしょ」
「夏神と秋神の対決をみたいものです」
「どうして、そんなことを」
「今日はどちらが有利かと」
「そうですなあ、今日は夏神が有利に戦いをやってますよ」
「風神雷神もいますねえ」
「これは太古からいるんじゃないですか」
「雷神は雨ですねえ」
「雲の上に乗っている鬼ですねえ。背中に銅鑼のようなものを一杯背負っていますねえ。あれで音を出すのでしょう。ごろごろと」
「鳴り物入りですねえ」
「災いをもたらす雷神ですが、雨の少ない時期は、恵みの雨になります。それに雷は飛び道具ですよ。強力な武器でしょうなあ」
「龍神なんかも水に関係するでしょ」
「話題がどんどん変わりますが」
「こういう話に付き合ってくれる人がいないので、まとめて言ってます」
「龍神さんは水神様とも言うのでしょう」
「水神様は龍神ですか。雷神ですか」
「さあ、どうなんでしょうねえ。昔から神様の名前を直接言うのは控えていたようです。当然、どんなお姿かは最初からないのですよ。呼び方は違っても、同じ神様の場合もあるようです」
「はあ」
「山にいる神だから、山神です」
「越前の守や能登の守のようなものですね」
「直接、名前を呼ばないで官位で呼んでいるのでしょうねえ」
「じゃ、山の神様にも、本当の名前はあるんでしょ」
「さあ、あっても後から付けたんでしょう」
「曖昧なものですねえ。神様って」
「畏れおおいものの御名は言ってはいけないのですよ」
「それじゃ、秋神ってのは、直截すぎますねえ」
「秋ぐらいの特定ならいいんじゃないですか」
「じゃ、夏の神様もありだ」
「はいはい、多くの人が、夏の神様がいると思えば、立派に存在できますよ。夏神様として」
「こう言うのは何でしょうねえ」
「神様が何だったのかが分からなくなったので、今がチャンスですよ。新しいのを勝手に作る」
「じゃ、猛暑神がいいですなあ。私が名付けたい」
「だから、一人で勝手に名付ければいいのですよ。神様はいくらでもいますから。無限です」
「あ、はい」
「まあ、昨今、神様を見いだせるのは、よほどの暇人かもしれませんがね」
「仰る通りです」
 
   了


2014年9月1日

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