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遅かりし由良之助
川崎ゆきお
「事は成るとだめだねえ」
「なぜですか」
「分かっていると思うが、次にやることをこしらえなくてはいけない。まあ、それ以前に目先の用事がなくなる。これが困る」
「その用事が片付いたのでしょ」
「それで、終わると気が抜けた」
「はい」
「やっているときは嫌で仕方がなかったんだけどね。でもやらないと先へ進めない。だから、やっていたようなものだ。その先とは完成させること。終わらせることだな。これが目的だ」
「要するに目的がなくなったので、気が抜けたわけですか」
「だから、物事は成就しない方が長持ちする」
「長く引っ張るわけですね」
「それがジレンマなんだ。嫌なことは早く終わらせたい。長いと嫌だ。どこかで区切りを付けたい」
「じゃ、次の目的を作ればいいじゃないですか」
「そうなんだが、作ることは作るんだが、長持ちしない。作っているときには分からんのだがね、実際にやってみると、苦行だよ。苦しいのはいいのだが、程度がある」
「しかし、もうしなくても終わっているようなことを長く引っ張るのもしんどいでしょ」
「いいこと言うねえ、若いのに」
「いえいえ」
「そうなんだよ。そうなると、目的はもう問題ではなくなるからねえ。終わると目的が消える。それが嫌なだけなんだろう」
「一段落済んだのでしたら、しばらく休まれては」
「そうだねえ」
「時間の余裕もできたと思うのですが」
「ああ、しばらくは遊んで暮らせる」
「そして、遊び過ぎたと思うあたりで、また戻ればいいのですよ」
「何処に？」
「次の目的にです」
「そうか。それが見当たらん。あることはあるんだが、やり出すと居心地が悪くなる。こう言うことをずっと続けてやるのかとなると、もうだめだ。すぐに尻を割る」
「それで、この前までやられていたことは終わったのでしょ」
「え、何が」
「ですから、やっと目的を達成されたと、さっきおっしゃってましたが」
「ああ、そうだよ。事は成った。しかし、引っ張りすぎた。そのため、遅過ぎた。できるのが」
「はい」
「もうそれができても価値はなくなっていたんだ」
「事は成ったのでしょ」
「遅かりし由良之助だ」
「はあ？」
「ものにはタイミングあるんだなあ。数年早くできておれば、まだ価値はあった。今はゼロ戦隼人だ」
「喩えが、かなり古いですが。キャラが」
「旬を逃がしたのだ。それは引っ張り過ぎたためだよ。早く成ると、次にやることがないので、それが怖くて引っ張り過ぎた」
「はい」
「今時、こんなものが出来ても価値がないのだから、仕方がない」
「じゃ、次はよくタイミングを見て」
「そうだね。しかし、それをやっているときは安定していたよ。多少苦しくなったり、飽きたりしたがね」
「はい」
「さて、次は何をするかだ」
「新たにまた何か始められるわけですね」
「そうだね」
「じゃ、楽しい時期じゃないですか」
「しかし、今回のような遅かりし由良之助になることが見えておるので、少しやる気がねえ」
「はい」
「そして報酬もゼロ戦隼人だし」
「はい」
了
2014年9月13日