小説 川崎サイト

 

雷の後

川崎ゆきお



 明け方から強い雨が降っていた。竹中はそれで目を覚ました。雨音が合板の庇を叩き、割れた樋から庭に滝のように落ちてくる。庭は土だ。毎回ここに落ちてくるので、滝壺のようになる。そこで竹中はトタンの切れ端を敷いていた。このブリキのトタンに当たる音が甲高い。それに響く。
「こういう雨はすぐに止む」と思いながら、また眠った。今日は出席しないといけない会合がある。仕事関係の組合だ。顔を出さないとまずい。結構さぼりがちで、三度に一度ぐらいしか参加していない。集まっても大した話が出るわけではなく、状況報告程度だ。皆が集まったからと言って状況が変わるほどのアイデアが出るわけではない。そのため最近は親睦団体になっている。つまり、世間話をする程度の集まりだ。それが朝からある。そんな早い時間にと思うのだが、決まり事なので仕方がない。最初は夕方からだったが、飲み会になるのを避けたためだ。これを最近は朝会と言っているが、食事をするわけではない。喫茶店でお茶を飲むだけの朝会だ。そのため、人数もしれている。
 竹中は、今度はいつもの時間に目を覚ました。雨は降っていない。あの雨が続いていれば、欠席だろう。中止にならないのは、車で来るメンバーが多いためだ。多少の雨なら問題はない。その喫茶店は最近できた店で、建つところを竹中は見ていた。田圃が消え、そこに建ったのだが、小さな喫茶店だ。しかし、駐車上がやたらと広い。個人の店ではなく大きなチェーン店だ。
 朝食を終え、竹中が出かける準備をしていると、窓が暗くなった。そしてゴロゴロと雷の音。雨はこのときまだ降っていない。今、出ないと間に合わない。しかし雷。
 雷が怖いわけではない。その後雨が来ることを心配していた。雷だけで済めばいいのだが。
 しかし、窓はさらに暗くなり、パラパラ音がし始めた。その後は、一気だった。土砂降りだ。これでは外には出られない。竹中は自転車だ。徒歩で喫茶店までは遠すぎる。自転車でも、この雨では無理だろう。
「今日欠席するとどうなるか」
 特に何も起こらないだろう。三度に一度休んでいるのだから、四度に一度になってもそれほど目立たない。最初からあまり顔を出さない組合員という事になっている。それよりも毎回来る人の方が異常なのだ。結成当時は大勢集まり、会議室などを借りたものだ。今は喫茶店のテーブル二つあれば十分だ。前回行ったときは、四人掛けテーブル一つで間に合っていた。もう組合としては終わっているのだ。残っているのは仲良しグループだろう。
 しかし、竹中は組合から金を借りていた。その仲間からのカンパではなく、返さないといけない金だ。それを分割で返していたのだが、最近返していない。だから、たまには顔を出さないとまずい。
「雷が鳴った後の雨は強いがすぐに止む」
 竹中はこの地方に長く住んでいるので、それが分かる。だから、三十分程度の通り雨だと見た。
 竹中は靴下をはこうとしていた。左ははいている。右をはきかけようとしたとき雷が鳴ったのだ。だから、左だけはいたままだ。出かけないのだから、靴下を脱ぐことにした。そして、居間のソファーにいつものように深く座り、テレビを見ていた。このまま朝のワイドショーの続きを見ていたい。見なくてもいいような内容だが。
 雨はかなりきつく、明け方のそれと同じだった。ただ、そのときは長く降っていた。しかし、今回は雷付きなので、すぐに止むだろう。
 案の定、ぴたりと止んだ。窓が明るくなり、日差しまで見えだした。竹中はまた靴下をはき始めた。止んで良かったのか、悪かったのかは分からない。顔を出した方がいいのだから、やはり止んだ方がいい。
 少し遅れたが、竹中は寄り合いのある喫茶店まで自転車を飛ばした。
 しかし、結末は意外だった。いや、これは竹中だけが意外と感じただけかもしれない。そして、非常にあっさりとしている。
 誰も来ていなかった。
 
   了



2014年9月14日

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