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寒い秋
川崎ゆきお
「急に寒くなりましたねえ、もう冬ですよ」
「いやいや、まだ夏が終わってやっと秋になったばかりですよ」
「去年は秋がありませなんだじゃないですか、いきなり冬でしたぞ」
「そう言えば、毎年春や秋が短く感じられますねえ」
「だから、春秋衣料なんて、中途半端で中途半端で」
「はいはい」
「夏物と冬物だけでいいんじゃないですか」
「アイというのがあるでしょ」
「ああ、間ものねえ。中間ですなあ」
「そうです。しかし、これは春と夏の間なんです。夏と秋の間。秋と冬の間」
「まだ、分割しますか」
「初秋と晩秋じゃ違うでしょ」
「まあ、そうですが」
「そして、秋のど真ん中も」
「何段階もあるんですなあ」
「そして秋と春は気温は似てますが、別のものです」
「はいはい、春になってもまだ寒いので、冬の服装のままでいますよ」
「その場合、軽い目の冬の服装でしょ」
「そうですなあ」
「だから、それは冬の中での段階がまたあるのです。冬の初めと冬の終わりは同じものでも、また、ないのです」
「ややこしいですねえ」
「精神的な面もあります。これから寒くなっていく秋と、これから暑くなっていく春」
「はいはい」
「聞いてますか」
「何を言っていたのか忘れてしまいましたよ」
「だから、秋物を着ても、寒く感じるからどうすればいいかと言うことでしょ」
「そうそう」
「重ねればいいんですよ。夏物でもいいから」
「はいはい。しかし医者へ行ったとき、聴診器を胸に当てられるとき、着込んでいると恥ずかしい。それに何枚も着ていますと、脱いだりまくり上げたりずらしたりするのに時間がかかる。急ぐと筋を違えたりして、痛い痛い」
「最近聴診器を当てる医者、少ないですよ」
「うちの近くの医者はやってくれますよ。風邪を引いた程度でも、胸や背中に当ててくれますし、腹が痛いときは、触って診てくれますよ」
「お年寄りの医者で、しかも空いていませんか」
「がらがらです」
「だから、時間があるんですよ」
「ああ、なるほど」
「しかし、寒い。秋になったばかりだけど、真冬ものが着たい」
「いいじゃないですか。でも、きっと暑いですよ」
「そうかなあ」
「秋口に真冬の服装で歩いている人、いますか」
「いません。見かけません」
「きっと暑いからですよ。まだ早いのです。それに変な人だと思われるの、嫌でしょ」
「それそれ、それが一番の壁なんですよ。まだ、半袖で歩いている人もいますからなあ。それさえなければ」
「きっと急に寒くなったので、驚いただけでしょ。まだ夏も残ってますよ。ほら、入道雲も、あそこに湧いてます」
「はい」
了
2014年9月24日