小説 川崎サイト

 

三度寝の悪夢

川崎ゆきお



「眠い、もう少し寝たい」
 秋の夜長、夜更かしで遅くまで近藤は起きていた。昔の友達が急に気になった。涼しくなると人恋しくなるのだろうか。それで、友達の名前で検索すると、何人かは出て来た。同姓同名の人もいた。知っている友達も十年以上経つと顔が少しだけ違っている。中には古い写真をプロフィールに使っている。こちらの方が分かりやすい。
 それらの友達は様々な事情で、相見えることはもうないのだが、全く関係を絶ったわけではなく、何かの用事で再会するかもしれない。当然二度と会いたくない友達もいる。また、向こうから絶交された場合もあるだろう。ただ「絶交だ」などと宣言する友達はいなかったが。
 それで夜更かしとなり、朝、目が覚めてもまだ眠い。朝の支度は一時間かかるが、実際には十五分ほどで済む。そのため、まだ四十五分も余裕があるのだ。そういう起きにくい朝を想定して早い目に起きるのではなく、朝はゆっくりしたいのだ。まだ夢の中にいるような状態のまま駅まで歩きたくない。
 朝、いろいろな用事をゆっくりとやるわけではなく、ネットを見ているのだ。複数のコミュニケーション系サービスに参加しているため、その書き込みを見ている。朝から近藤自身は何も書き込まないが。
 画面をスクロールさせると前日見ていた続きが出て来る。一晩寝かすと結構書き込みが溜まる。それを見たところまでスクロールさせるのが朝の日課なのだ。これはしなくてもいい。通勤中スマホでもできる。しかし、部屋の大きなモニターで見るのが常になっているため、ここでの表示でないと落ち着かない。内容は同じなのだが。
「あと十分」と思いながら、今度はしっかりと三十分ほど二度寝してしまったようだ。
 そしていつものようにすぐにパソコンを起動し、いつもの画面をスクロールし始めた。いつもなら三十分前後かかるが、今朝はその割り当ては十五分になる。そこで、メーラーを起動し、自分に対してのコメントなどを先にチェックする。こちらのほうが早いのだ。
 メールの殆どは広告だが、それらを次々に削除しながらスクロールさせた。すると、コメントがありましたというメールが届いている。いつもの人だ。コメントは二つだけあり、さらにスクロールさせると広告の中に知った名が出て来た。
 昨夜旧友を探していたのだが、その旧友からなのだ。その旧友も近藤と同じコミュニケーション系に入っている。昔のプロフィール写真を載せていた岸和田という男だ。
 近藤はすぐに一覧から本文を開ける。
「昨夜は久しぶり、今度来たときは声をかけてね。チャット開けてるから」
 今度は岸和田のページを覗いたが、何もしていない。何も押していない。どうして、自分が来たことを岸和田は知ったのだ。何か妙なものを仕込んでいたとは思えない。「いいね」ボタンも押していない。当然コメントも。
 近藤はすぐに、岸和田のページを調べた。飲み食いしたときの写真などが貼り付けられている。そこに、いいねやコメントが積み重なっている。
「どうして分かったんだろう」
 しかし、よく見ると日付が。
 飲み屋の料理の写真が一番上にあるが、数年前なのだ。プロフィール写真の古さから見て、これは……
 近藤は冷やっとし、すぐに別のウェブページへ逃げた。
 旧友を探して、覗き見するのものではない。
 近藤は二度寝が三度寝になっていることを願った。
 
   了


 


2014年9月25日

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