「霊が見える人っていますね。あれって、どうなっているんでしょうか」
宮司はこの種の質問をよく受ける。神社そのものが霊的な世界なので詳しいと思われるのだろう。
その日は税理士に帳面を見せる日で、早く終わったので、雑談となった。
「うちの神社でもお祓いをしますがね、正直、そんなものはいませんよ。あくまでも儀式で、それが大事なんです。行事ですな」
まだ若い税理士は宮司の意外な面を見た。
「でも、霊を見た人、知り合いにもいますよ。どうなんでしょうね」
「それは幽霊のことですか?」
「そうです」
「確かに聞く話ですね」
「もし見たとすれば、それって幻覚でしょうか」
「そうかも知れませんなあ。頭の中で見たのでしょう」
「それなら計算が合います」
「どうして、そんな話を?」
「霊を見たって女の話が信じられないからです。何か特別な人間だって思ってもらいたがっているんじゃないかと意地悪く取ります」
「どんな体験だったのかな」
「あれは見たんじゃなく感じたんでしょう。墓場にうじゃうじゃいるって言うんです」
「いそうな舞台ですなあ」
「ほら、今、通ったとか、あの墓石の後ろにも……とか。公園でも……」
「面白い女性ですなあ」
「彼女の部屋にもいるんだって。外からついてきた霊とか」
「野良猫みたいですなあ」
「そうなんです。彼女の部屋には常に霊がいて、霊と暮らしているんだ」
「興味深いですなあ」
「彼女の部屋じゃなく、彼女の頭の中にいるんでしょ」
「だと、思いますよ」
「幻覚なんでしょ?」
「まあ、人間は幻想を見ているようなものですから。それもまたよしですな」
「でも宮司さんは目の前にいますよ。これも幻想ですか」
「それも頭の中で作っているんですよ」
「そうかもしれないけど、複数の人が同じものを見て、同じように存在を認めますよね。でも彼女が見える霊は僕には見えない。これって違いに段差があるでしょ」
「その女性が見ている霊はあなたと関係しているかもしれませんなあ」
「ど、どういうこと?」
「いや、何でもありません」
了
2007年1月13日
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